供給側はいないハズ
「……察するに百位以内に入れる見込みの無い選手が勝ち星を売りに出すって事が行われているのだろうが……百位に入れないにしたって順位相応の評価ってのはされるものなんじゃないのか? それが出世に響くなら、安易に勝ち星を譲ったら給料が増えないハズだ。これでは売った方が損をする事になるぞ」
この大会は一定の順位を超えた時のメリットが一気に跳ね上がる傾向にある。それだけに一定水準を超えない事が確定した際に勝ちを譲るという行為には買い手が付くという理屈は理解出来る。……が、その売値が釣り合いの取れた価値を持っているのかは甚だ疑問だな。
「まあ、長期的に見ればそうなるだろうな。だからこその噂話だ。冷静に考えればそんな事はあり得ないとわかる。ましてや火霊祭に出場する程優秀な魔術師ならばすぐにわかる事だ」
確かにオリヴィエの言う通りだ。普通に考えれば一つでも順位を上げていった方が恩恵は大きくなるハズだ。つまり、勝ちを買おうとする事はあっても、売ろうとする事は無いわけだ。……だからこそ売値が付くという考え方も出来るのだが、明らかに需要の方が大きいハズだ。供給側に回ろうとする意味がわからない。
「まあ、売ってたら買おうとする奴は山ほどいるだろうが……売ろうなんて考える奴がいるとは思えないな。それとも、勝ち星ってのが尋常じゃない値段で売られているのか?」
考えられるとしたらこれくらいしか無いな。売る側からしてみたら一回売った時点で敗退するわけだから、売る本人視点なら一年に一回きりのチャンスだ。ならばその売値は尋常じゃない値段になっているというのが普通の発想だろう。この噂話がまことしやかに囁かれているのは、そんな尋常じゃない価格設定であっても買い手がいると思われているところにあるハズだ。つまり、そこまでしてでも順位を一つでも上げたいと考える選手が山のようにいると、世間では思われているし、また、実際に数えきれない程の人数が金で買えるならば買おうとするのだろう。




