中途半端は良くない
「まあ、杖や魔導書が耐久性を度外視して作られているって理屈は理解できるが……」
少なくとも、剣だとか槍に武器としての強度を保ちながら魔法効果を付与させる事に比べたら制作ハードルが低いというのは想像に容易い。
「ああ。振り回して使う事はあまり考えなくても良いからな。そういう意味では、防具に魔法効果を付与させるのはクリアしなくてはならない水準がかなり高く設定される事になるわけだ。これが防具の人気が低い理由だな」
「まあ、防具なんてのはそれこそ敵からの攻撃を受ける事が前提の装備だしな。その衝撃で魔法効果が損なわれないように設計する必要があるわけか」
「そういう事だ。その点、魔導書なら簡単だ。……杖の場合、鈍器として使用出来るタイプの物もあるがな。だいたいはどちらかの用途に絞り込んで作られているな。両方に対応している物は……かなり珍しいぞ」
確かに杖と言っても、メイスのように物理攻撃が可能なサイズの物もあれば、指揮棒サイズの物もあるな。
「物理攻撃と魔法攻撃の両方に対応させるメリットがそれだけ薄いって事か」
「どちらかと言えば、作ったところで使いこなせる奴がいないと言った方が適切だな。私ですらほとんど使った試しが無いからな……」
「お前でも使う機会が無いんじゃ、他の魔術師なんてさらに使い道を見出せないだろうな」
接近戦を仕掛けつつ魔法で攻撃を加えるって戦い方をするオリヴィエでも滅多に使わないとなると……逆に誰がどうやって使うんだって話になるな。
「少しでも射程を伸ばしたいという魔法の杖としての要求と、接近戦での破壊力を要求する鈍器では目的が真逆だからな……わざわざそんな物を作るくらいなら、鈍器か射程の延長かどちらかに振り切った物の方が好まれるな」
「……射程を伸ばすって言うが、そんなに伸びるものなのか?」
「物にもよるが、数百メートル単位で伸ばせる杖も存在するな。一般的には数メートル以下……数十センチの物まであるが」
「数十センチ? そんなのをわざわざ持ち歩く意味なんてあるのか?」
数十センチなんて、少し歩けば届くような距離だぞ? ……いや、相手が近接武器なら十分意味のある距離か。
「長さ十センチメートル程度の棒切れみたいな物だからな。持ち運びには便利だ。そしてやはりこれも小型化と大型化の二極化を起こしている。内ポケットに入り切るサイズか、ついて歩く程長いかだ」
中途半端な長さが一番使い道が無いって事か。小型で使いやすいか大型で高性能のどちらか……中間だとそれぞれの強みを潰してしまうのだろう。




