ルームサービスのメニュー
「二人は先に部屋に入っていろ。私は今日の新聞を取って来る」
「ここ俺の部屋なんだけどな。とりあえず鍵は開けておくぞ」
俺の部屋の前に辿り着くと、オリヴィエはそのまま部屋を通り過ぎて自分の部屋の鍵を開けて入って行った。
「聞いてないね。あれ」
「しょうがねえ奴だな……俺らも入るか」
「うん」
俺も自分の部屋の鍵を開けて部屋の中へ入る。
「とりあえず適当に座っていてくれ」
俺はミーシャにソファに座るように促しながら、ルームサービスのメニュー表を探す。
「多分呼び鈴の近くにあると思うよ」
俺がメニュー表を探しているのを察したのか、ミーシャが俺に話しかける。確かに呼び鈴を鳴らして注文するんだからその近くにあるか。
「これだな。一組しかないから先に決めておくか。先に読んで良いぞ」
そう言いながら俺はミーシャにメニュー表を渡した。
「別に何でも良いよ私は」
「それは俺もそうだな」
お互いにそれだけの意見を述べると、しばらくの間沈黙した。そして、お互いに言葉は交わしていないが、オリヴィエと同じ料理を注文しようという暗黙の了解でメニュー表をテーブルの上に放置した。
「待たせたな。新聞の他に、資料になりそうなものも持ってきたぞ」
オリヴィエが部屋の扉を開けて入って来た。新聞だけでなく、何冊かの本も小脇に抱えていた。
「それは悪いな」
「必要になってから取りに行っていては手間だからな」
「まあ、ミーティングは注文を決めてからにしようよ」
そう言いながらミーシャはオリヴィエにさり気なく極自然な流れでテーブルの上に置いてあったメニュー表を持ってオリヴィエの方に向ける。
「ああ。いつまで続くかわからんし、その方が良いな」
そう言いながらオリヴィエもソファに腰掛けると脇に抱えていた資料をテーブルの上に置いて、ミーシャからメニュー表を受け取ると料理を選び始める。
「決まった?」
オリヴィエが何度か返し読みし始めるのを確認すると、ミーシャが尋ねる。
「ん、まあな。せっかくだしフィレステーキでも頼もうか。向こう持ちとの事だしな」
そういえば費用は運営の方で負担してくれるんだったな。……まあ、それなら運営の方もフィレステーキを注文する連中が山ほどいるのは織り込み済みなのだろう。
「そうか。じゃあ、俺達もそれで三人前注文だな」
「うん」
「は?」
オリヴィエが注文を決めた事で、自動的に俺とミーシャの注文が決定した流れを見て、オリヴィエは少し驚いたような表情で俺の事を見つめて来た。




