無事では帰さない
「開催期間の短さから危険な競技を行うだろうって事は……まさか、俺達の出番以外でも戦闘は行われるって事か?」
オリヴィエの言葉に対し、俺は疑問を口にする。いや、危険だからって戦闘になるというのは少し短絡的過ぎるか。戦闘以外にも危険な行為なんてのは幾らでもあるだろう。それこそ錬金術だとかの薬品を用いるようなものなら事故だとかの実例で枚挙にいとまがないというものだろう。
「戦闘は行うだろうな。……と、言うか毎年最終的には戦う事になっているな。表向きには色々と綺麗事が言われていても、火霊祭はそもそも賢者様の後継者を見出すのが当初の目的で行われたものだ。どんなに頭が良くても実際に戦えなければ意味が無いという理念があるのだろう」
……まあ、実際に勇者様と共に魔王と戦えますか? と、問われてイエスと答えられないような奴を選んでしまったら大会の存在意義が問われかねないからな……実際に戦えるかどうかは割と重要なファクターだな。
「魔王と戦う覚悟はありますか? って事か。まあ、優勝者が尻尾巻いて逃げましたじゃ恰好がつかないな」
「実際のところ、火霊祭が始まってから数百年間もの間、世界が平和だったわけでは無いからな。この大会で優れた成績を収めた者が多い国は、つまり魔術師の質の高さを証明している事になる。そういう意味でも実際に戦っても強い魔術師が好まれる風潮はあるな」
そりゃあ、何百年も平和が続くわけないな。と、言うかそんな平和だったら『国境』なんて概念が残ってるわけないし、武器の輸出を生業にしているヴィンクラー公爵家が大金持ちってのもおかしな話だ。
「まあ、大衆もそっちの方を好むだろうな」
当初の基本理念や、今叫ばれている綺麗事も大切だろうが、現実問題として興行としての利益も無視出来ない事実だろうな。となれば大衆の好みが反映されるのも当然の話か。
「とは言え、最初から最後まで戦闘では私達が出た大会と大差ない上、観客も飽きる。そのため基本は純粋な魔術師としての資質が求められる競技が大半だ。問題は、今回の火霊祭ではどれだけの人数を戦闘で脱落させるかだな」
「……まあ、俺達の出番ってのを考えるなら四百以上はほぼ確実だな。これ以上増えるのは不味いと思うが」
「いや、逆だ。少ない方が不味い。何故ならそれだけ絞り込まれた段階で上澄みの魔術師が戦う事になるのだからな。そこで体力を温存した魔術師が出し惜しみ無しで戦おうものなら、大惨事になるのは確実だ」
「……それは、とにかく俺達がどれだけ選手の体力を削りまくれるかに大会の行方がかかってるって事にならないか?」
俺の質問に対し、オリヴィエは何も答えずに黙って頷いた。そりゃあ、まあ、上澄み同士の死闘に割って入れる係員や安全に管理出来るシステムが都合良く構築されているかって話だが……勝ち上がった百人は勿論の事、俺達もまともな状態では帰すつもりはないという執念を感じるな。




