思考に割く時間
「……ままならないものだな」
「ああ。だからこそ、半ば世間に事実が漏れてしまっていても、何とかして隠し通すしかないというのが現状だ。今日の朝刊に載っていたぞ。自然公園に役人が集まっているという記事がな」
「そんな記事なんて載ってたか？」
俺も新聞は毎日読んでいるが、そんな記事は記憶に無い。
「この国の新聞にな。読んでないのか？」
「……ああ、この国で発行されている新聞か。それは読んで無かったな」
確かホテルの入口に色々な新聞が売ってたな。それを読んだのか。
「なんだ。明日は大切な日だと言うのに、情報を集めてなかったのか」
「部屋に入った後、すぐに寝たからな。お前はわざわざフロントまで戻ったのか？ 新聞を買いに」
「いや、ルームサービスで持って来させた。何なら貴様も読むか？ 新しい発見があるかもしれんぞ」
「まあ、そうだな。仕入れられる情報は可能な限り集めておいた方が良いか」
これからすぐにミーティングを行うのだから、情報はすぐにでも揃えておきたいところだ。
「新聞なら部屋にある。すぐに持って来よう」
「助かる」
「それから……自然公園のより詳細な地図も持って来よう。ガイドブックに載っている地図では大まかな形しかわからんからな」
確かに……より詳細な情報が載っている地図の方が作戦は立てやすいな。
「頼めるか？ 細かい地形や地質がわかるだけでもかなり作戦は立てやすくなるからな」
「ああ。もっとも……休むに似たような行為に過ぎないものになりかねないがな……」
「なに？ どういう意味だ？ ……って、『バカの考え』って意味で言ってるよなそれ？」
考える前から単なる徒労に終わる事を危惧しているのか？ 俺達がこれから立てる作戦が役に立たないと思ってるって事だ。……あまり、オリヴィエらしい考えではないな。
「新聞に載っているという事は、明日戦うであろう選手達もその情報はすでに入手しているという事だ。当然、今私達が握っている情報なんてのは彼らにとっては予想の範囲内でしかない。考えている選手は、すでに大まかな作戦程度はすでに考えているというわけだ。当然、歴戦の猛者と呼ばれるような選手達程その傾向は顕著だな」
「ベテランなら想定の範囲内、つまり俺達が一晩で考え付く程度の作戦ならすでに思いついているし、当然その対策だって立てているってわけか」
……まあ、あり得ない話では無いな。自然公園が競技に使われるだろうという推測があるからには、そこで行われるであろう競技にもある程度の予想は立てられるハズだ。事前にある程度予想しているのと、予想外の事が急に発生するのでは対応の差が大きく出るからな……過去のデータも持っていると考えれば、俺達が策で上回る可能性は低いか。付け入る隙があるとすれば、選手達はもっと他にも推測を立てなければならない事柄が山ほどあるから自然公園に思考を割く時間が少ないという点か。これなら、俺達が策で上回る可能性もある。
