あえて与えられているヒント
「選手達同士での意見交換を認めるという事ですね? ……選手同士だけでなく、審査官同士も……?」
解説役の人の説明を受けて、そのまま受け入れようとしてしまったが、一瞬違和感のようなものを覚えた。審査官同士の接触も各々の判断に任せる……? 何故そんな選択肢が存在している? そんなものは勝手にやらせておけば良いだけのハズだ。それをわざわざ各自の判断に任せるとは……つまり、審査官の方も複数人で挑む可能性が高いという事か……? 確かに理に適った話だ。そもそも今ここに呼ばれている魔術師は基本、単独での実力よりも複数人であるチームでの強さが高く評価されている傾向にある。……まあ、単独で強い奴らは火霊祭の選手として出場しているだろうから仕方のない話なのだが……チームでの戦いを得意としている奴をわざわざ単独で戦わせるのも合理的では無いというわけだ。
「ええ。当日、皆様方がご自身の出番の直前まで他の審査官の方と好きなだけ意見交換していただいて構いません」
……場所は国立自然公園なる場所でほぼ確定。そこで複数人で戦わせるとなると、事前に作戦の打ち合せは必要になるだろうな。それが一時間やそこらで出来るかと聞かれれば……まあ、実戦経験の豊富な魔術師なら可能だろう。経験の浅い連中の場合、考えがまとまらないという可能性もある。自然公園という場所を匂わせているのは、今夜から打ち合わせの時間を俺達に与えるためなのか?
「質問は以上です。ありがとうございました」
俺は質問を終えると、再び席に着く。
「どう思う? 私達が話し合いをするのもありだとの事だが?」
「問題なのは、その話し合いが今からでも普通に可能だって事だ。……選手達と違ってな」
「……私達が少しでも有利になるように今の段階であえてヒントを与えている。という事か?」
「だろうな。俺達審査官が選手達と同じ条件で戦う道理は無いわけだしな。と、言うか……同じ条件で戦うって前提がそもそも成り立たないか。選手達と違って、俺達同士は潰し合いや騙し合いをする理由が無いんだからな」
選手達からしてみたら、自分以外の全員が極論を言ってしまえば敵になりえるのに対し、審査官側からしてみたら審査官同士で戦う理由が無いのだからな。……まあ、何かしらのメリットを運営が出してくる可能性も無いわけじゃ無いが……そんな意味不明な真似はしないだろう。




