与えられる時間
「……以上で、説明を終了とします。何か質問はございますでしょうか?」
一通りの説明が終わった。明日の予定の説明の他には、基本的には今日は大人しくしていろという事だった。
「会場から別の場所へ移動するとの事ですが、具体的な移動方法は?」
審査官の一人が、手を挙げて質問をする。
「審査官の皆様方には転送魔法で移動させていただきます。これだけの人数が会場から移動しますのは目立ちますので」
転送魔法での移動か。まあ、妥当な移動法だな。単純にこれだけの人数が移動するのも不自然だし、ましてや武具の類を担いで移動するとなると、これから何をするのか周囲の人間にバレる事になるだろう。もっとも……そこまでのギリギリなタイミングになってしまえばもはやどうでも良いとも言えてしまうが。
「……選手達は転送魔法で移動しないという事ですか?」
「いえ、そういうわけではありません。当日は渋滞等の混乱が予想されますので、移動方法は皆様方と同様に転送魔法での移動をしていただきます。……この時、皆様方と一緒に転送する事になります」
俺達審査官と選手達を一か所に集めてから転送するのか? しかし、戦闘する場所そのものは別の場所でやるハズ……その転送場所からは徒歩圏内という事か?
「複数の場所が用意されているのに同時に転送? やはり自然公園以外に場所が無いのでは?」
「そういった質問にはお答えできません」
解説役の人は頑なに認めようとはしないが、やはり、国立自然公園で戦うのでほぼ確定と考えても良さそうだな。
「では、移動後は具体的にどのように行動すれば良いのですか?」
「到着後、係員が待機していますので指示に従ってください。到着後、一時間程の休憩時間を挟んだ後、競技が開始されます」
……移動した後にわざわざ休憩時間を与えるのか。
「その休憩時間は、競技の内容を伝えられた後に与えられるのですか?」
俺も手を挙げて質問した。この休憩時間が、ルール説明が行われた後に与えられるのか、それとも何の説明も無いままいたずらに待たされるのかで選手達の感じるストレスは雲泥の差が出る事になるだろうからだ。
「予定では、説明の後に休憩となります」
つまり、休憩時間という名目で作戦を考える時間を与えているわけか。
「その間、我々審査官や選手の間で接触する事は可能ですか? 審査官同士や選手同士での接触は?」
「前者は当然禁止となります。後者に関しましてはどちらも各自の判断に任せる事とします」
……選手間同士での相談はありって事かよ。意図的に結託や裏切りが発生する事を狙っているのか? だとすると、選手達は最低でも複数人で戦う事になるが……まあ、百人前後しかいない審査官の人数と比較すると明らかに五百人からなる選手達の方が人数としては多いんだから必然的にそうなってしまうか。それに選手達同士で潰し合ってくれた方が審査官の負担もそれだけ減るわけだから、それを意図的に誘発させようとあえて選手達に考える時間を与えているのも頷ける。




