当然のように選手もいる
「そうか。……なんにせよ、このホテルに明日の大会の選手が泊まっている可能性が高いとわかった以上、出来るだけ出会わないように部屋の中で待機していた方が良いのだろうな」
結局のところは、俺達の存在がそもそも認識されていなければしなくても良い心配だからな。極力他人と関わらないように振舞った方が良いのだろう。
「出来ればそれが望ましいのだが……どうしても出来ないという事もある。例えば、今ここに明日の大会に出場する選手がいるのだからな」
「何……? いるのか? 今ここに」
「ああ。向こうの方に……」
「止めろ。視線なんて向けたら気が付いている事がバレるだろう?」
俺は選手がいるのであろう方向に視線を向けるオリヴィエを慌てて制止させる。
「それもそうだな」
「しかし、まあ、いるとわかっている以上、長居は無用だな」
「ああ。すぐに退散しよう」
まさか、こんな身近な場所に大会の出場者がいたとは……こればかりは予想していなかった。俺と同じく、選手とは可能な限り接触したくないと考えているオリヴィエは食堂からすぐに立ち去るという俺の提案に納得している様子だった。
「私も食べ終わったよ」
ミーシャも遅めの昼食を食べ終わったようだ。
「なら、すぐにここを出るぞ」
オリヴィエに促されるまま、俺達は食器を返却口に運ぶと、そのまま食堂を後にした。
「それにしても……選手がいるなんて良くわかったな? 顔を覚えてるってのも勿論凄いが、あんなに人が多い場所で探し出せるとはな」
「それほど大した事では無い。目ぼしい人物は全員ファイルしてあるしな。それに何より、その周囲にいた人物も大会の常連だったと記憶している。……今度の大会に出場するのかどうかは覚えていないが」
有名な魔術師だからすぐにわかったわけか。……しかし、そんな魔術師のすぐ近くに、大会の常連と言われる程の魔術師もいたとはな。……まあ、当たり前と言えば当たり前の現象ではあるな。大会の常連……つまり、毎年コンスタントに成績を残すからには毎年安定して実力を発揮する必要があるわけだからな。そう考えれば、自分と同レベルかそれ以上の魔術師と意見交換をするというのは理に適っている。




