鉢合わせしたくない場所
「おい、起きてるか。時間だぞ」
昼の二時を回る頃に、俺の部屋をノックする音と女の声が聞こえてきた。
「わかった。すぐに出る」
二時になる少し前に目が覚めていた俺は、すぐに部屋の扉を開いた。
「ん? なんだ、もう起きていたのか」
部屋をノックした後、すぐに部屋から出てきた俺を見て、オリヴィエは意外そうな表情で話しかけて来る。
「まあ、来る事はわかっていたからな」
オリヴィエ達と別れた後、俺は部屋に入って荷物の確認をした。無くなっている物も特に無い事を確認すると、そのまま俺はベッドで眠りについた。そして、二時になるとオリヴィエが俺を呼びに部屋の前に来るのはすでにわかっていたので、その少し前に起きていたという事だ。
「ふむ、良い心がけだ。これでもしも貴様がベッドで眠ったまま起きなければ、私達が二人で同じ部屋で待機していた意味が無くなっていた」
まあ、寝過ごさないために一つの部屋に複数人いたのに、一人で寝ている俺が寝過ごしたんじゃ話にならないだろうな。
「まあ、その場合は俺の事は放っておいて二人で昼飯を食べてくれて構わなかったぞ」
「貴様を起こすためにホテルマンにマスターキーを持って来させるという方法も無いわけでは無かったが……そんな事のためにわざわざ持って来させるのも迷惑だからな」
それは嫌だな。オリヴィエだってそんなくだらない事でホテルマンを呼びたくないだろうし、俺だってそんな理由でホテルマンが呼び出されてたら嫌になる。……ホテルマンも含めて、誰も得しない結果になっていただろうな。
「その事態だけは避けられてよかったな……すぐに移動しよう」
「そうだな。こんなところで、他の審査官と鉢合わせはしたくない」
「……まあ、『この階』で会う客はその可能性が高いだろうな」
これはオリヴィエ本人も言っていた事だが……この階には明日の大会で審査官に選ばれた奴が多く泊まっているハズだからだ。実際問題、同じ階に一般客が泊まっていたら、勘づかれてしまう可能性だってあるわけだしな。それなら出来るだけ一か所に集めておきたいと考えるのが普通だろう。現に俺達三人の泊まる部屋は隣り合っていたしな。
「ああ。問題なのは、他の国の審査官は別に私達と仲良くする理由が無いという事だ。逆もまた然りなのだが……妙な騒ぎはお互いに避けたいだろうしな」
まあ、会った事もないような連中と仲良く出来るかと問われたら出来ないだろうからな。それどころか、明日の大会での審査ですら、互いに顔を向かい合わせる事も無く、大会が終わる可能性だってありえるわけだ。
「なら、すぐに移動しよう。三人で集まってるところを誰かに見られたら、ここに来た理由がバレてしまうかもしれないからな」
ここで会ったら、お互いにお互いの事を審査官だと意識する事になりかねないからな。ところが、ここから一階でも階層が違うのであれば、ただの一般客としか認識しなくなるハズだからな。




