同じ部屋なら手っ取り早い
「急用なんて出来るわけないよ。だって私が今日ここにいるのを知ってる人なんているわけないんだし」
確かに正論だ。ミーシャに用事があったとしても、本人に連絡を取る手段が存在しない以、ミーシャに急用が出来るわけがない。
「いや、そうとも限らないだろう? 例えば、偶然出会う可能性だってあるハズだ」
「それならなおさら部屋から出ない方が良くない?」
「……確かに」
ミーシャからの反論に、オリヴィエは逆に納得している様子だった。
「ミーシャ側から急用が出来る場合を考えるしかないな。その場合、自分の意思で部屋を出るって事になるんだが……何か興味を引く物があればそうなるんじゃないか? まあ、その時寝てたら気が付かないだろうし、意味ないだろって話になるが」
「ふむ、確かにそれはその通りだな」
「大会前日なんだからあり得ると思うよ? だけど、それをどうやって知るの?」
「……無理だろうな。ホテルの外の声がここまで届くとは思えないし、それに万に一つ届いたとしても、他の様々な声と混ざり合って認識不可能な雑音になっているだろうし、興味を引くって事にはならないだろうな」
流石に窓を全開にでもしない限りは外の声が聞こえて来るって事は無いだろう。ここ四階だし。そして窓全開で寝るとか、不用心にも程があるって話だ。普通に窓は閉めた状態で寝るだろうし、何なら、カーテンだって閉めるハズだ。カーテンも障害物の一つと考えれば、遮音の効果を果たす事だろう。なおの事、外の情報なんて入って来るわけがない。
「結局、寝るだけなら問題無いというわけか。……いや、しかし、私が他人の部屋の鍵を管理するというのはな……」
「そんなに嫌なら、いっその事ミーシャと同じ部屋で待機したらどうだ? それで上手くいくかどうかは知らないが」
「む……? 同じ部屋で……?」
「ああ。まあ、それでミーシャが熟睡出来るのかどうかは知らないが」
ぶっちゃけ、消去法でそれしか選択肢は残っていないだろう。オリヴィエがミーシャを起こすなら同じ部屋にいるのが一番手っ取り早い。




