ホテル到着までの朝食
「……まあ、怪しまれないように行動するという意味では徒歩で移動しても良かったのだがな」
「学生三人での観光なら別段怪しくは無いとは思うが……目的地のホテルってのは徒歩で行ける距離なのか?」
「徒歩でなら一時間くらいだろうな。歩けない距離ではないが、馬車を利用した方が良いだろう」
徒歩で一時間か……この人混みの中歩くとなると、迷子になる危険性もあるな。
「徒歩で一時間なら、馬車で移動するならそれほどかからずに済みそうだな」
「ああ。だから朝食は手軽な物を食べる。もうすぐ着くハズだぞ」
オリヴィエがそう言うや否や、馬車は停車した。
「ん? もう着いたのか? 何の店だ?」
「コーヒーショップだ。サンドイッチも売っている」
そう言いながらオリヴィエは馬車の窓を開けると、店員に注文をした。
「馬車に乗った状態で注文するのか……?」
「ああ。馬車ならすぐに到着する距離だからな。馬車の中で食べる」
……一応、運営から集まるように言われた時間はお昼頃だったハズだ。もう少し時間が経つと人の交通量がさらに増えて渋滞するという点もあるのだろうが……随分とホテルへの到着を急いでいるな。
「まあ、店の中で食べるとしたら、それまでの間、馬車をどこに止めるかって問題があるな」
「そういうわけだ。これで足りなかったら、ホテルのルームサービスでも頼むと良い」
オリヴィエが窓から身を乗り出すようにして店員に代金を渡して注文の品を受け取る。そして今度はそれを俺とミーシャに渡してきた。
「午前中は特に何も用事は無いんだろう? それならこれくらいでも十分だろう」
集合時間さえ守ればホテルを出てしまっても問題は無いのであろうが……一応、俺としては自室で待機しているつもりだしな。ルームサービスを頼む必要も無いだろう。
「そうか。それなら良いが」
「で、これって幾らするんだ?」
「ん? ……ああ、そういう事か。そんなもの気にする必要は無い」
「良いのか?」
「ああ」
どうやらオリヴィエの奢りのようだ。ここは善意に甘えておこう。
「それは悪いな。……ところでお前、さっきの注文、メニュー表も見ずに注文していたが、良くそこで食べるのか?」
「まあな。空港から中心部へ行こうとすると、ほぼ確実に通る道にある店だからな。こっちに用事がある時はだいたいあの店に行く」
何度かこの国に来たことがあるのか。それは、今初めて知ったな。




