馬車での移動が無難
「質問に答えられない以上、理由を聞かれるのは不味いな。そして、行方不明扱いにされて大事になるのはもっと不味い」
「そういうわけだ。だから、余程の緊急の事情が無い限りは飛空艇での移動中に転送魔法で移動するのは禁止されているな」
「まあ、そんなのを認めていたらとてもじゃないが管理しきれないだろうからな」
飛空艇なんていう密閉された空間で人がいなくなったりでもしたら完全なミステリーだからな。それこそ本当に行方不明にでもなられたら責任問題だし、緊急事態に陥らない限りは原則禁止もやむなしだな。
「ああ。受付のスタッフからしてみたら渡された名簿と飛空艇から降りて来た乗客の人数が一致していないという状況だからな。降りた後も何かと手続きが必要なのに、それらを全部無視されたら探さないわけにもいかないだろう」
「人間誰だって面倒は避けたいしな。手続きを無視して観光出来るとなったら……皆そうするだろうな」
飛空艇が国境線を超えたところで転送魔法で移動する乗客が多発するだろうな。それこそ転送魔法を扱える魔術師がそういうビジネスを始めても良い。
「そうなったら完全に管理不能状態に陥るだろうな。そうなるのが目に見えているから禁止されているというわけだ」
まあ、そういう事態に陥るだろうな。
「と、言う事は転送魔法での移動は空港での手続きを全て完了させた後って事になるな。堂々と移動する分にはともかく、人知れずに移動となると……一気に難易度は跳ね上がるな」
「まず大前提として、他人に知られてはいけないという性質上、自前で転送魔法を扱える魔術師を用意する必要がるな。……もっとも、この部分は私ならば容易な話ではあるがな」
人員の確保に関しては問題無いな。問題なのは魔法の発動そのものをどうやって人目に付かないように行うかだ。
「人目に付かない場所なんて……存在しないよな? 大会前日ともなると」
「絶対に無い……とは言い切れないが、あったとしても土地勘の無い我々には知り得ない場所だな」
「本当に本気を出して出来ないって事は無いんだろうが……やはり、色々な事を考慮すると現実的じゃないな。それなら普通の観光客を装って馬車で移動した方が遥かにマシだ」
普通と異なる行動を取る奴はそれだけで目立つからな。逆に言えば、普通の範疇から逸脱しない範囲であれば、周囲の人間から悪目立ちする心配は無いってわけだ。




