転送魔法が使えない理由
「……まあ、目立つのは目立つが、周囲に悟られぬように移動する事も可能だがな。それでも場所を考えねばならんが……」
「場所を考えるって……普通にホテルの中で良いんじゃないのか?」
転送魔法での移動なら直接目的地に移動してしまえば良いように思うが……目的地側もこちらの事情は把握しているわけだし、何とかなると思うがな。
「転送する先はそれで構わないが、問題は転送魔法を発動する場所だ。国境線を跨ぐわけにもいかんし、かと言って正当な手順で出国したのに正当な手順で入国しないわけにもいくまい」
「……なるほどな……入国の手続きを済ませてから転送をする事になるから、一度は人目に触れる事になるのか……? いや、しかし、あまり気にする必要もないような気がするが……?」
どのみち、今回だって人目の触れるところで入国手続きを済ませたんだから大して変わらない気がする。
「それ自体は良いが、空港は公共の施設だ。人目に触れないように転送魔法で移動するにはどうしても空港で働くスタッフの協力が必要になる。それではそこから情報が漏れてしまうだろう?」
「確かにな……出来る事なら、お前の家の連中だけがいるって状況で移動したいな。それに……ホテルの従業員だって不用意に審査官の事を伝えるのは避けたいハズだしな。ホテル側の協力ってのも、手放しで信用するのは避けたいところだな」
転送先の状況がどうなっているかをこちらが知る事は出来ないのだから、それを考えればあまり多用するべきではないって話になるな。
「そういう事だ。完全に情報を遮断するつもりなら、この馬車から転送魔法を使う事になるのだが……それだって魔力の感知能力に優れた魔術師なら気付かれてしまうからな。……もっとも、その場合だとすでに怪しまれてる事になるだろうから殆ど気にする必要のない可能性ではあるがな。それよりも転送先……つまり、ホテルにヴィンクラーの使いの者を多数配置させていたりしたら、むしろそっちの方から怪しまれるだろうな」
確かに……それじゃあこれからヴィンクラー家の人間がチェックインするって事がバレバレだ。だからといってすぐに大会の審査官と結びつけるのは出来ないにしても、注目を集めるのは事実だしな……避けたい状況ではあるな。
「飛空艇の中で転送……ってのは、マズいんだよな?」
「私達が入国したという事実を確認出来なくなってしまうからな。まず間違いなく転送魔法を使った理由を聞かれるし、最悪の場合は行方不明扱いにされる危険性があるぞ」
まあ、確かに正式な入国手続きをせずに移動しましたじゃ向こうも黙ってられないだろうからな。事情も話せないじゃ行方知れずとされても仕方ないな。事実そうとしか言えない状況なわけだしな。




