馬車の理由
「まあ、確かにこんなところで武器を確認している絵面は物騒だな」
ましてや明日は重要な大会が開かれるわけだ。もしかしたらそれに関する荷物ではないかと疑われる可能性も否定できないしな。
「そういうわけだ。すぐに出発するぞ。荷物の確認さえ終わってしまえば、後は堂々としていれば逆に怪しまれん」
「周囲の人間はただの観光客だとしか思わないだろうな」
たとえどこの誰だとバレたとしても、明日の大会の観戦に来たのだろうと考えるのが普通だ。……それにしては気が早すぎだろってレベルの到着の速さではあるが。
「そういうわけだ。だから普通に観光を楽しんでいるように振舞えば良い」
なるほどね。一般的な観光客を装えばいいわけか。オリヴィエの話を聞き、納得した俺達はすぐに馬車に乗り込んだ。
「凄いな……! 王都以上に栄えた都市なんじゃないかこれは?」
馬車が出発し、空港を出るとそこに広がっていた光景は実に華やかなものだった。まず建物の一つ一つが高い。二階建てや三階建ての建物の方が珍しいと言っても過言では無い程に高い建物が並び立っていた。しかしそれらの建物は無秩序に乱立されているものとは異なり、道路がまっすぐに整備されている事から、綿密な都市開発が行われた市街地である事がわかる。
「経済規模で言えば圧倒的にこの街の方が栄えているな。当然、それに伴って人口密度も桁違いだ。大会は明日だというのに人通りは大会中の王都より多いくらいだ」
オリヴィエの言葉通り、馬車の窓から外を覗き込むと歩いている人の数が段違いだ。これがイベントの最中では無く前日だと言うのだから驚きだ。明日になったら渋滞で馬車なんて走れないんじゃないか?
「なるほど、朝早くに出発する必要があるわけだよ。この時間帯でこれじゃあ、昼に近くなったらどうなるかわかったものじゃないな」
「下手したら渋滞に捕まって身動きが取れなくなっていたかもな。もしそうなったら馬車での移動ではなく、転送魔法で移動していた事になっていただろうな」
「わざわざ転送魔法なんて仰々しいものを使っていたら、相当目立つだろうからな」
転送魔法を扱える魔術師は数が限られているからな。大会当日なら遅刻とかの関係で転送魔法での移動もあり得るだろうが、前日にそこまで時間に急がされるような用事が俺達にあるってのは不自然な話だからな。馬車で悠々と移動するってのもそういう部分でのカモフラージュ的効果があるのだろう。




