扉を叩く音
「おい、起きろ。もうじき着陸するぞ」
部屋の扉をドンドンと叩く音が聞こえてくる。俺はその音で目を覚ますと、ベッドから起き上がって部屋の扉を開けた。
「オリヴィエか? 今、何時だ?」
「朝の五時だな」
「マジかよ……」
早朝に向こうの空港に着くという話は聞いていたが、まさかここまで早いとはな。
「着陸したら飛空艇から降りて手続きだ。荷物の積み下ろしが終わったらその後は馬車で移動になる。朝食はすでにこちらで予約を取ってある」
「この飛空艇で食べるわけでは無いのか」
「流石にこの時間帯で朝食は厳しいだろう」
確かに朝食にしては早すぎる時間か。
「着陸まであとどれくらいあるんだ?」
「後三十分といったところだな」
「なんだ。まだそれなりに時間はあるんだな」
「別に二度寝をしても構わんが、着陸の際に船体が揺れる可能性があるからそこは気を付けておけよ?」
なるほど、その注意喚起のために俺を起こしたのか。
「わかった。覚えておこう」
「二度寝をしないのであれば、向こうで待っていてくれ。私はミーシャを起こしてくる」
昨晩、オリヴィエと話し合っていたテーブルのある部屋を指さすと、オリヴィエは自分の部屋の隣の部屋の扉を叩く。
「起きた気配がしないな」
オリヴィエがどんなに扉を叩いても、扉の向こうから人が歩いてくる音が一向に聞こえて来なかった。ベッドの中から出て来ていないという事だろう。
「やむを得んな」
そう言うと、オリヴィエは懐から鍵を取り出した。
「どこの鍵だそれ? 予備か?」
「マスターキーだ」
「マスターキー? そんなのまで持ってるのか」
まさかマスターキーなんてのまで予め持っていたとは……準備が良いな。
「これ以上起きる様子が無ければ、私が直接部屋に上がり込む」
「そうか。頑張れよ」
そう言いながら俺は部屋を出た。別に二度寝するつもりもないし、オリヴィエがミーシャの泊まっている部屋に上がり込むのを眺めているつもりもないし、テーブルのある部屋へと向かった。
「ん? 貴様は良いのか?」
「男が上がり込むのは洒落にならんだろ」
仮にオリヴィエだったとしても、朝起きたら目の前に部屋に入って来れるハズのない人間が立ってたらビビるだろう。それ以前に部屋に他人を上げたくないって奴もいるだろうしな。ミーシャがそのタイプの人間なのかはわからないが。




