最悪は他の誰かを巻き込む
「……手加減、していたのか……あれで」
「ああ。間違いなく全力は出せていなかったな。全力なんて出したら障壁なんて打ち抜いて即失格だ。それか……誰かに致命傷を負わせて反則ってオチもあったかもな。お前みたいに」
やろうと思えば本当に一振りで障壁を叩き切ってたからな。当然、あんなものを食らったら常人じゃどうにもならなかったハズだ。そして最悪のパターンは、障壁を叩き切った際に観客まで巻き込まれるってパターンだ。……流石にそこまで力加減が出来ないって事は無いと思うがな。
「いや、あれは……」
「まあ、あれに関しては審判が即決でストップをかけないでくれて助かったな。下手すりゃ、お前が退場食らっててもおかしくなかったんだぞ? 剣が動脈にぶっ刺さってたんだからな」
「なら、他にどうしろと言うのだ……!?」
「どうする事も出来なかっただろうな。だから審判も即座に試合を中断するって判断を取る事が出来なかったわけだしな。あの時のお前は故意でやったのか、それとも事故で起こってしまったのかの判断がかなり怪しかったぞ」
決勝戦なんて場面で安易なジャッジなんて下せるわけがないからな。あれがストップの判断を数秒遅らせた。しかし、あの状態で放っておく事は出来なかったし、あの王子様が優勝する事を優先してあいつの事を見殺しにしてたら俺達は普通に負けてたな。
「あれはわざとではない。こっちだって無我夢中だったのだ。……貴様は気楽に棄権したようだがな」
「俺に合わせてあの王子様も棄権してくれると思ったんだよ。……まあ、結局は似たような形になったし、結果的には良かっただろ」
俺から棄権しなかったら、向こうだって棄権なんて出来やしなかったハズだしな。もし勝手に棄権なんて真似をしたら、相方が俺とオリヴィエの二対一の状態に陥ってしまうわけだ。かと言って互いに力加減を緩めて全力に近づけていけば、どこかのタイミングで障壁をぶっ壊すレベルの技の撃ち合いになって……最悪の場合は他の誰かを巻き込む大事故になりかねなかった。




