成り立った理由
「……まあ、賭けが成り立つってのはつまり、それだけ俺達に賭ける奴が増えたって事になるからな。当然、それは俺達が決勝進出するのが決定した後って事になるだろうな。……準決勝の時点だと……そこまで俺達が高い評価を受けていたとは思えないな」
一応、万に一つの可能性として、もっと早いタイミングで……要するに準決勝の時点で賭けが成り立ってたという可能性も無きにしも非ずではあるが……あの王子様を倒せる可能性がワンチャンでもある事を観客に見せられた奴がいたかと聞かれれば……その時点ではいなかっただろうな。
「ああ。客観的に見て準決勝での試合内容を見る前に、私達に優勝の目があったと考えていた観客は少なかったハズだ。準決勝が終わってから決勝戦開始までのスケジュールを考えたら、体力を回復させている暇は無いと考えるのが普通だからな。準決勝で私達が消耗しながら辛勝でもしていたら、やはり賭けは成立していなかったハズだ」
「当然の話だな。優勝するのは準決勝で潰し合いが発生した時に最も体力の消耗が少なかったコンビになるだろうと考えるのが自然だ。決勝に引きずる程のダメージを負って勝ったとしたら、流石に優勝は不可能と考えるのが普通だろう」
つまり、あの時点で賭けが成り立たせるには、俺達が体力の消耗をほぼ無しで勝ち上がるか、決勝戦までにベストコンディションに調整してくる事が出来ると多くのギャンブラーに判断されるかのどちらかという事になる。恐らく後者だと判断されたのだろう。
「ああ。……で、賭けが成立した決め手は恐らく貴様が目立った消耗も無く勝ち残った事に起因しているだろうな」
「俺か……?」
「結局のところ、あの賭けが成り立つ条件というのはあの王子様が負ける可能性がゼロじゃないと思われる事に終始するからな。逆に言えば、絶対に負けないと思われていたら私達へのオッズなんて何倍だろうと同じ事だ」
確かにな。百倍だろうが千倍だろうが……何億倍になろうが、可能性がゼロなら期待値はゼロだからな。それこそ会場に隕石が直撃して決勝戦どころではない、という展開にでもならない限りは……まあ、それじゃあ賭けどころでもなくなるから本末転倒なんだが……それくらい非現実的な可能性に期待してる奴しか賭けなかっただろうな。そしてそんな人数じゃ賭けは成立しないわけだ。つまり、あの王子様が負ける可能性はゼロじゃないと考えた奴らが少なからず現れたという事だ。流石に、世界中の全ての人間が、たった一人の個人に対して『絶対無敵』と確信するのには無理があったというわけだな。人によっては遠い外国の一人の選手としか認識出来ないだろうし、当然の成り行きではあるな。




