逆らいにくい空気
「まあ、伝説の勇者様の血を継いだ後継者を本気で名乗れる内なら良いさ。これでいよいよとなった時に名乗れるかどうかが重要なわけだしな」
もしも魔王が本当に復活なんてした場合、人々にとって重要なのは伝説の勇者様一行の後継者がいるという希望だからな。
「名乗りを止める者が出て来ると?」
「そりゃ、誰だって自分の身は可愛いだろうからな。特に頭の良い奴はどうしたって損得勘定がちらつくだろ」
「なるほどな? 確かに勇者様だけの話じゃ済まないな。他にも戦士様や騎士様。それに賢者様も揃わなきゃ話にならない。一人だけ名乗れても意味は無さそうだな」
「まあ、正統後継者がハッキリとわかってる奴は名乗れるだろうが……良くわかって無い奴はそうおいそれとは名乗れなくなるだろ。……まあ、そんなの名乗れる奴なんて一人しかいないだろって話だとは思うが」
勇者様は男系が断絶。賢者様は弟子を取ったとの事だから、血筋よりも師匠筋を重要視。戦士様に至っては行方も不明なら戸籍も不明と真贋を鑑定する基準すら喪失してると来てる。こんな中で血統書付きのサラブレッドなんて消去法で一人しかいない。
「確かに、掛け値なしに正統後継者を名乗れるのは騎士様の末裔ただ一人だけだな。……まあ、騎士様じゃなくて王子様になったが」
「そこはしょうがないな」
「しかし、正統という御大層な冠さえなければそれを名乗れる資格のある者は少なからずいると言うのも事実だな。色々な意味で名乗り難いのが現状だが」
「そうなのか? ……いや、そうか。男系と考えればそれなりにいてもおかしくないか。王族だし」
男系と言うのは父親の父親の父親の……と遡っていくと、本家本元に辿り着く血筋の事だからな。当然、父親に血を分けた兄弟がいればその分男系は分岐していく道理だ。
「ああ。正統という言葉を付けなくても名乗る者が少ないのは、余りにも正統後継者が正統後継者として文句無さ過ぎて言い出しにくい空気があるからな。しかし、それだけに本当に王子様を戦わせるのかという話もあるから、正統ではない者の中から名乗りを上げるべきじゃないかという噂も流れているぞ」




