一応は嬉しい悲鳴
「そんな伝令や情報調達の仕事までこなしていたのか。それに加えて教会としての責務も果たしてたんだろ? 随分と過酷な仕事だな」
「まあ、時代が時代だからな。……と、言うか、あの時代においても比較的安全だったからこその責任だったのだろうな。魔王を倒しても人類が滅んでは話にならんわけだし」
確かに情報を集めておく場所は安全である事が必須条件だからな。……まあ、これはあくまでも結果論ではあるが、しかも魔王は討伐では無く封印だからな。教会の奔走が無かったとしたら、魔王が封印された時点でも人類は風前の灯火……そのまま勢いで押し切られた可能性もあるし、仮に撤退してくれたとしても人類の復興はかなりの期間を要する事になっただろうから、魔物に付け入る隙を与える事になる。さらに魔王が復活する可能性まで残ってるとなれば、最終的に勝利するのは魔物側だったという事も大いにありえた事だろう。
「それこそ実際には倒したわけでは無く、封印だからな。人類が滅んでたら魔王の一人勝ちになってただろうな。……もっとも、それは人類には認識出来ない事ではあるが」
「まあ、そうだな。そういう意味でも教会の存在意義は大きいと言うわけだ」
そりゃ大きいだろうな。人類の今日があるのは教会のおかげって側面もあるって事になるんだから。
「そんな権威ある教会が勇者様の正統後継者を一人に絞り込めないってのは……時代の移り変わりを感じずにはいられないな」
「一応、教会側の立場としては教皇の名のもとに一人に絞り込んではいるがな。それに納得していない者がいるというだけで」
まあ、それはそれで権威が失墜している証拠とも言えるな。
「そういえばそうだったな。男系が断絶されてさえいなければもっと楽な話だったんだが……ないものねだりしても意味は無いしな……」
「何百年も前の話をされても産まれて来なかったものはどうしようもないからな。それもこれも魔王復活の可能性なんて微塵も考えていなかった当時の人類の危機感の無さに起因するんだが……」
「しかも断絶が確定した途端に騒ぎになったとかでもないんだよな? 後継者争いの問題が大きくなった時期を考えると」
「ああ。男系が断絶したというだけで、直系の子孫はまだまだいるからな。そもそも騒ぎの原因になっているのは、後継者がいないからではなく、むしろその逆で一人に絞り込めないからだしな」
まあ、実際に魔王が復活した時の事を考えると、後継者選びに失敗は許されないわけだから慎重にもなるだろうな。
「しかし、まあ、嬉しい悲鳴ではあるだろ? 最悪なのは他人に押し付ける奴しかいないって状況なわけだし」
「それは……まあ、本当に最悪な状況を考えればそうなんだが……」
まあ、最悪過ぎて想像したくない光景ではあるわな。伝説の勇者様の血を継いだ直系の子孫達が責任を押し付け合う光景は。




