形骸化の理由
「……まあ、運と言ってしまえば運だろうな……」
「なんだ、妙に引っかかるような言い方をして?」
「いや、男系の血筋が途絶えたのは運とかの問題では無く、そもそも正当後継者を名乗る者がいなくなったのが原因っぽいところがあるからな……」
「名乗る者がいなくなったって……名乗れる者がいなくなったの間違いでは無くか?」
男系ってのは要するに、父親の父親の父親の……って、父親を遡っていけばいつかは伝説の勇者様に辿り着くって血縁の事を言う。逆に言えば、勇者様から見て、息子の息子の息子の……と、繋がっていれば良いわけだ。それを名乗る者がいなくなったというのはどういう事だ?
「ああ。さっきも言ったが、魔王を封印してから二百年も過ぎると、十分な人数が勇者様の血を継いでいる状態になったからな。しかし、そいつらからしてみたら重要なのは勇者様の血を継いでいる事であって、男系で繋がっている必要は無いわけだ。つまり婚姻関係を結ぶのは勇者様の娘でも良かったわけだな」
「まあ、それはそうだろうな。それに、王侯貴族の方が男系で繋がっている事に重きを置くなら、勇者様の血を継いでいる娘の方が軋轢も生まれずに済むだろうしな」
仮に勇者様の息子と婚姻関係を結べたとしても、男系を重要視するなら、その子供が次の当主になる事は無いだろうからな。むしろ、勇者様の方の後継者として選ばれる可能性の方が高いだろう。
「実際、その関係で勇者様の男系での繋がりではそこまで高い身分の者は出てこなかったわけだ。……で、平民の出の者達が必ずや息子に後を継がせる事に執心したかと言われたら、そんな事はないわけだな」
「……だろうな。特に正統後継者なんてものがあるんだったら、それこそ男系に拘るのはその一族だけで、他の連中は拘る理由も無いな」
「……で、その正統後継者で繋いでいた一族からついに男の子が産まれずに娘が後継者に選ばれるという出来事が発生したわけだ。今から三百年近く昔の話だな。そしてその出来事に対して世間の反応はほぼノーリアクションだったわけだ」
……まあ、それは……仕方ないだろうな。これが王族とかの話だったら何かと話が面倒な方向に拗れてしまう事もあるだろうが……聞いてる限りだとあくまでも身分としては平民の話に終始している事になるからな。そんなものをいちいち気にしてはいられないだろう。
「そりゃあ、息子が産まれなかったから娘を後継者にしますと言われても、興味無い奴からしてみたらどっちでも良い話だからな」
「しかも田舎の恒例行事の一つにまで形骸化していたからな。そんな状態で勇者様の血を継いだ後継者ですと堂々と名乗る者はいなくなっていったわけだ」
まあ、確かに何百年も昔にいた人の子孫だからって理由でお祭りの主役に抜擢されるってのは、あまり気乗りしない奴がいてもおかしくはないだろうな。




