血の濃さ
「……勇者様の持っていた剣が神聖な物だってのはわかったが、もし仮に来るべき日が来たらどうなるんだ? 本当に勇者様に渡されるのか?」
「だからこそここ最近の勇者様の末裔問題が浮上してきているわけだ。何せ万に一つ、魔王が復活なんて事になった日には、この時代の勇者となる人物に剣を返さなければいけないんだからな。渡す相手を間違えるなんて事は絶対にあってはならない事だ」
まあ、実際に魔王を倒すことに成功した武器なわけだからな。それが本来渡されるべき者の手に渡らないという事態は絶対に避けたいところだろうな。
「現状は誰の手に渡されるかは鉄板だったな? それでも色々と言われているみたいだが……」
「こればかりはどうしようもないな。何せ勇者様の末裔だとか、後継者だなんてのは明確な定義がされているわけではないからな」
「確かに……勇者様の血を継いでいる人間そのものは山ほどいるんだろ?」
「そりゃあ、世界中の王侯貴族達がその血縁を欲しがったからな。だから単に血の繋がった子孫というだけでは不十分だとするのが通説だ」
まあ、世界を救った勇者様との血縁関係なんて、誰だって欲しいだろうからな。
「単純に継いでるだけでは不十分となると、他にもっと明確な資格が必要になるな。パッと思いつく限りでは血の濃さ……家柄、直系である事とかか」
直系であることと、家柄に関してはオーバーラップしている部分が多そうではあるが、親の親の親……と遡っていくと伝説の勇者様本人に辿り着く奴は立場が強いだろうな。
「血の濃さは度々議論に出るな。実際にどれだけ勇者様の血を色濃く継いでいるかの調査も行われているぞ。……何かと物議を醸しているが……」
「調査方法に何か問題でもあるのか?」
「ああ。家系図を可能な限り遡って確認するんだが……その時点で一部の人間が圧倒的に有利になるのはわかるか?」
「まあ、一般市民は何百年も続く家系図なんて持って無いだろうな」
つまり、長い歴史を持つ王族が優遇された結果になりやすいわけか。仕方ない部分があるとはいえ、かなり忖度された結果になりそうだな。
「その通りだ。しかしだぞ? いかに家系図が無いにしても明らかに血が濃いとわかる者達もいるだろう? 例えば勇者様が生まれ育った村の人々だ」
「それは村の大きさとか人の出入りとかでかなり変わるだろ?」
そりゃあ、小さな村で、人の移住も殆どないようなコミュニティだったら血は濃くなるだろうが……逆だったら何にも保証出来ないぞ。
「それを差し引いても極端に血が薄いという評価が下されてしまったわけだ。証拠が無いという理由でな。これが物議を醸したわけだ。何せ証拠とやらがある人物と言うのが、他の血も大量に混ざっている事がやはり証明されているわけだからな」
まあ、当然の事だな。色んなところと血縁関係を結ぼうとしているハズだしな。そもそも何百年も経ってて、血が濃いなんて事は直系以外は誤差みたいなものじゃないのか。




