編纂者は誰か
「より古い文献を調べるって事で疑問に思ったんだが……英雄譚ってのにはどんな逸話が載ってるんだ?」
「一応、様々な文献を通して間違いなく実話だと断定出来る逸話が選ばれている。まあ、その中でもどの逸話を記載しているかは編纂者にもよるが」
「ん? って事は、編纂者によって複数の英雄譚が出版されてるって事か?」
「ああ、そうだな。勇者様御一行が魔王を倒した後で、その功績を後の世まで残すために作られたとの事だが、時代の移り変わりによって何度も書き直されているぞ」
……まあ、紙媒体だとしたら何百年間も保存出来るわけないしな。何度か書き直しがなされるのは当然の話か。
「何度も書き直しがなされているって事は、昔と今で内容が変わっている部分もありそうだな」
「まあ、あるだろうな。信ぴょう性が薄い逸話は削除されたり、研究の結果、事実だと判明した逸話が付け足されたりで何度か新しい物に置き換わっているからな」
「……何度も内容が変わっているのか……」
どういう基準で選ばれているのかは知らないが、ある日突然、英雄譚から逸話が削除されたら、削除された逸話の部分に関わりのある土地に住んでいる人からしてみたら堪ったものじゃないな。
「こればっかりは時代が進むにつれて曖昧になってくる部分もあれば、時代が進んでようやく解明出来るようなものもあるからな……賛否の分かれる部分だが、定期的に更新がなされている。原典そのものが書き換えられる事もあれば、補遺に編集が加えられたりな」
「原典? って……そりゃあ基本になる英雄譚はあるか。で、それって誰が編纂してるんだ?」
「教会だな。教皇を含めた複数の枢機卿と、時代考証の専門家達と協議して内容を決定している」
「教会……まあ、そもそも勇者様一行が魔王討伐の旅に出たのも当時の教皇からの命令があったからと考えれば当然の事か。自分で命令していれば、その辺の情報も保管しているだろうしな」
そりゃあ教会の勢力も強力になってくるわけだな。




