大っぴらには言えない話
「魔王を倒した後の功績なら確実にナンバーワンってのは確かにそうなるだろうな。何せ魔王を倒した後は最終的に行方不明みたいな扱いの奴もいるみたいだしな」
「ああ。戦士様に関しては殆ど文献が残っていない状態だ。魔王を倒した後は勿論の事、魔王を倒すまでの道中でもな」
「ん? 旅の道中でも情報が残って無いのか?」
それは少し意外だな。勇者様一行が旅をしている時の文献ならそれなりの数が残ってそうなものだが。
「ああ。戦士様に関する内容は語られない事が多いな。まあ、これは多少は仕方ない部分もあるのだが……」
「仕方ないって……人格とかそういうのに何か問題でもあったのか?」
高名な勇者様一行のメンバーの中に道徳的に問題のある奴がいましたってのはあまり大っぴらには言えないだろうからな。
「人格……に問題があったかどうかは知らないが、どんな過酷な環境で毎日戦っても疲れ知らずだったと言われているからな……そういう部分から描写が少ないというのもあるが、情報が殆ど残って無いというのはそういう理由ではない」
「じゃあ、どういう理由だ?」
戦いに明け暮れる狂戦士だが、伝説の勇者様一行のメンバーでもある手前、あまり悪い印象で文献に残せないから情報が無いのかと思ったが……そういう話ではないようだな?
「端的に言えば、戦士様の情報が少ないと言うよりも他の三人のエピソードが多過ぎるって話だ。これは魔王討伐後に編纂された英雄譚でも同様の事が言える」
「……なるほどな。伝説の勇者様一行のメンバーの内訳はまず最初に勇者様。次に人類に貢献しまくった賢者様。後は一国のお姫様と結ばれた騎士様。それと比べたら……まあ、強いだけの戦士様はあまり語る事は無いだろうな。それこそ他三人なら多少話を盛ってるような逸話だってあってもおかしくない」
「う……む、まあ、そういう可能性もあるかもな」
……急に奥歯にものが挟まったような口調になったな……?
「……なんだ? 本当に盛ってるような逸話があるのか?」
「まあ、そうだな……英雄譚にはそういう類の話はないと思うが……各地に残っている文献や伝承には信ぴょう性に問題のあるものが混ざっているな。……本当に全部が事実だとしたら、魔王を倒す前に世界中を隈なく練り歩き過ぎだろうと言いたくなるくらいにはな」
あー……そういう話か。大っぴらには言えないが、間違いなく後世からの創作が混ざってるパターンだなそれは。




