逆に不可能
「……伝説的な存在が成しえた事だからこそ、他の人間にも可能だと考えるのではなく、そんな伝説的な存在が命を懸けて成しえた事だからこそ、逆説的に不可能である事が強調されるわけか」
まあ、ありえない話じゃないな。実際に今後二度と更新されないであろう偉業に関しては長く語り継がれるものだ。前例があるからこそ他の者には不可能だとな。
「まあ、そういう事だな。記録はいつか塗り替えられるもの……とは言えどもだ。伝説はそうも簡単にはいかない。彼らの苦難はショボかったのか? という話になってしまうからな」
「時代が違う。……の、一言で済む話じゃないのか?」
「時代の移り変わりで進歩しているならその一言で解決だが……そうじゃないものに関してはそう上手くはいかん。幾ら船の性能が飛躍的に向上したと言っても、海の中に潜んでいる魔物を捉えて迎撃する装置は大した進化なんて成し遂げていないからな。そこが不可能だと思われる原因になる」
当時と変わらないやりかたに拘り過ぎると、それこそ勇者様御一行とは何が違うかを明確に考える必要が出てくるわけだ。
「海の中だと、魔物の場所を特定するのは今も昔も大変なわけか」
「それもあるが、そもそもそういう設備を搭載しなきゃいけないって時点で使いどころは限られているしな。危険な魔物が泳いでいる危険海域そのものの数が少ないのに、それに対応した迎撃装置なんて作られるハズがない」
確かに……魔界にアホみたいな量の物資を送る必要が無い限りは深海に魔物が潜んでいようがいまいが、危険海域を避けて通れば良いだけの話だ。輸送船に装備させる必要まであると考えると作ったところで誰からも見向きもされない無用の長物で終わるのが関の山だろうな。
「避ければ良いだけの海域をわざわざ通る必要が無いというわけか。しかし、魔界に行くためにはほぼ確実に通らなきゃいけないとなると対策は必須。その対策内容が昔のやり方なほどどうやって人材を揃えるかって話になってくるわけだ」
何せ極端な事を言えば、伝説の勇者様一行に近しいレベルの乗組員を集める必要があるからな。輸送船の行き来にそんな人材を使っている余裕なんて無いだろうな。




