浮上させた策
「海中奥深くに霧の元凶となっている魔物が潜んでいる公算が高いってのは理解できたが……それでも自分達で潜って探し出すって手を思いついて実行に移すのは正気の沙汰じゃないな。……と言うか、そこまで潜れたって事実がまず信じられん」
人間が素潜りで潜れる深度なんて数十メートルが精々だろう。……極稀に二百メートルとか潜る例外的な人間もいる事はいるし、ましてやそこに加えて魔法まで使えるとなれば話は変わるのかもしれんが……それでも現実的な話ではないだろう。
「当然、魔物を浮上させるための策は打ったぞ。そもそも魔物達が何故霧を発生させて勇者様御一行の妨害をしたかって話だが、これは勇者様御一行の足止めが理由だとも、単に近くにいた船を襲っていただけだとも言われている」
「何にもわかっていないという事じゃないのか、それは?」
「確かにわかる事は何も無い。……が、では魔物達は最終的に何をするつもりだったと思う? 船に乗ってる勇者様御一行が全員餓死でもしたら霧を晴らしてその場を去ると思うか?」
「……まあ、船を襲うっていうのが妥当だろうな。そうでなくても、最低でも勇者様一行が本当に死んでいるのかどうかの確認を怠るわけにもいかないだろう」
そもそも魔法による索敵を行わずに霧と凪のコンボで足止めをしていたわけだからな。勇者様一行が餓死したとして、それを確認もせずに去る事が出来るかと言われれば……無理があるな。
「仮に勇者様御一行だとわからずに仕掛けてきていたとしても、船に直接攻撃もせずに去るというのはおかしな話だ」
「それこそ、錯乱状態に陥って船から飛び降りるって船乗りが今までにもたくさんいただろうな。それを経験的に知っていたとしたら……むしろ魔物の方から海に潜っている勇者様一行に向かって近寄って来てもおかしくないな」
どうやって探し出したんだとか疑問に思っていたが、魔物の方が勇者様一行を探し出してくれたって可能性も十分にあるわけだ。
「そういう狩りの仕方を今までやっていたと考える事も可能だな。だが、その可能性に賭けるのもリスクが高い。そこで行われた策というのが魔法の発動を完全に止めて荷物を廃棄して血を海に垂らしたのだ。という証言が幾つか出ている」
「……無くは無い策だな。下手に索敵魔法なんて展開してたら魔物にバレるかもしれないって危険性を考えれば、完全に魔法を使わずに待ち続けるってのもありな気がする」
海に飛び込んだ連中が魔物を返り討ちにしたなんて話、魔物側が把握しているとも思えんしな。




