飛空艇の離陸
「オリヴィエお嬢様、全ての貨物の搬入が完了しました。もう間もなく離陸となります」
一人の男性がオリヴィエに挨拶をしてきた。話の内容に加えて、着ている服装が他の乗組員と比較して上等なのも併せて考えると、恐らく艦長だろう。
「そうか、すぐに離陸してくれ。少し揺れるから気をつけろよ」
オリヴィエは艦長らしき人物に発進を命じると、次は俺達に足元の揺れを警告した。
「……! 発進したか……」
不意に足元が揺れたかと思うと、飛空艇が浮かび上がっていくのを感じる。外の景色は殆どわからないが、建物の明かりが徐々に下の方へ見えていく事から、この飛空艇が浮かんでいるのだろう。
「とりあえず明日の朝まではこの飛空艇で移動だ。我々の泊まる部屋は向こうにあるぞ。それから、基本的に私達が行動して良いのはこのラウンジと客室の範囲だけだ。他は足を踏み入れるなよ」
「まあ、乗組員の迷惑になるしな……と言うか、客室なんてのがちゃんと用意されてあるのか……」
輸送船の類だと聞いていたので、乗組員が使うための部屋しか用意されていないものとばかり思っていたが、このラウンジと言い、客室の存在と言い、フェリーに近い用途で作られているようだ。
「一応な。それでも旅行用の最高品質の客室には劣るが……まあ、一日の移動なら特に問題ないだろう」
確かに……この手の移動手段だと数日どころか、数週間……下手したら一か月とかかかる場合もあるだろうからな。そう考えると狭い部屋で寝泊まりするのは気が滅入る者も出てくるだろうな。
「正直、個室でベッド一つさえあれば文句は無いな」
「そうか。因みに……魔界を調査した飛空艇にも客室やラウンジはあったのだが……魔界調査した際の資料置き場として使われたぞ」
客をもてなすための設備は搭載されていたのか……だが、魔界を調査するにあたって客人なんて招くわけないからそういった部分は資料を置く場所に使われたというわけか。
「まあ、物置にするって言っても食料保管庫として使うわけにはいかないだろうからな。日数で劣化しない物を置くしか使い道は無いな」
「そういう事だな。部屋の構造としても外の景色は見れても真下は見れないから会議室として使う事も出来なかったらしいな」
ラウンジを会議室として使うのは……気分としては微妙だな。それに周囲の人間への情報伝達がしやすいって場所でもないだろうからな。
「まあ、真下を見たがる客はいないだろうからな……それはそうと、真下を確認するって事は魔界調査の作戦とかは上空からの写真やらである程度は分析しながらやったんだよな? ……空気の密閉に悪戦苦闘したって事は人間が生存出来ないような毒ガスでも発生していたのか」
「ああ。空気も土壌も人間が生活するには適していない状態だった事が判明した。まあ、想定の範囲内ではあったから、魔界に生息する魔物からの襲撃に備えられるように拠点を作らせて……最初の数日間程は拠点のすぐ近くで調査させていたようだ」
やはり魔界ともなると、人が住めるような環境ではないらしいな。
「まあ、わからない事だらけの状態だからな。それで、魔界を調査したゴーレムって何体くらいいたんだ?」
「最終的な数は知らないが、最初は一体だけを投下したみたいだな」
「たった一体だけか?」
「ああ。一気に大量投入して全滅しましたじゃ話にならないからな。それに、拠点となるシェルターだっていきなり大きいものを射出するわけにはいかないから、一体のゴーレムと個人用シェルターだけで最初の数日間は様子を見たらしいぞ」
確かに何があるかわからないんだからたくさん送る必要は無いな。それで安全が確保されたらその都度別のゴーレムや資材を投入していったのか。




