最初に実績を出した奴
「そんなのが発覚したとなったら、黙ってないのはこの国だけじゃないだろうな?」
「勿論、様々な国が魔界の調査に乗り出した。そんな中で我々が一番最初に成功に漕ぎ着けたのは、ゴーレムの大量投入が最大の要因だろうな」
「まあ、得体の知れない環境に生身の人間を送り込むのに比べたら随分とマシだろうな」
「元々、生身の人間が生存出来ないような環境の探索や作業を行うために作られた労働力だからな。理屈の上ではうってつけの選択肢だったわけだ」
理屈の上でベストな判断って事は、当然、他の国だって同じ判断を下すのが道理だ。それをしなかった……もしくは同様な事をした上でこの国が一番乗りをしたのにはもっと他にも要因があったのだろう。
「そんなに合理的な方法なら他の国だって思いつくし、そうでなくても効果があるとわかったらこぞって真似をするだろ?」
「ああ。だからこそ競争だったらしいぞ? 何せ一番最初に実績を出した開拓方法が最も注目されるからな」
「歴史に名を刻めるってわけか」
「……あー……それも間違いでは無いが……一番が重要な理由はそれだけでは無いな」
なんだ? 一番最初に思いついた奴が第一人者になるとか、そういうの以外にも何かメリットがあるのか?
「……? 最初に実績を出した奴が縄張りでも主張出来るのか?」
普通に考えたらそれが自然な流れだもんな。最初に開拓を成功した連中より後から来た連中が我が物顔で参加してきたら軋轢が生まれるだろうし、利益追求で計画を立てているって思惑と矛盾する事になる。
「まあ、そういう意見が通りやすいというのも勿論あるが……他にも色々ある。さっきも言ったように、魔界を調査したいのは我々だけじゃない」
「……場所でも貸すのか?」
「そんなマフィアのような真似はせん。だいたい、所有権をどうやって主張するつもりだ? 勝手に場所を占拠するのもマズいが、それと同様に勝手に主張するのも反感を買うぞ?」
流石にそういうのは皆のものって認識なのか。……で、皆のものと言っても、開拓に成功した奴がその範囲で主導権を持つって暗黙の了解がある感じか。
「実質的に主導権は持つが建前は共有財産になるわけか」
「ああ。だから魔界の地質調査や魔物の生態と言ったようなフィールドワークで得られる情報は共有するという協定が結ばれている。……発掘された遺物等は共有する事が難しいからその限りではないがな」
「その『等』に採掘した資源が含まれてるわけか」
まあ、意図的に作られた法の穴って奴だろうな。どこの国だって慈善事業をやってる余裕があるとも限らないし。
「その通りだ。……で、何となく想像がつく話だとは思うが、世の中には魔界の調査そっちのけで資源の発掘をしたいという国や人間がいるわけだ」
「当然いるだろうな」
「そういう者達からしてみたら、全くの独自技術で魔界を開拓しようとか、現地を調査しようとは考えないわけだ」
確かに……完全に利益目的で開拓事業をするなら一から挑戦する理由は無いな。
「……『一番最初に実績を出した開拓方法』が真似されるわけか」
「ああ。『その際に使用された道具』も含めてな」
「……! ゴーレムを売るのか……金鉱ではスコップを売るべしとは良く言ったものだな……」
「実際の金鉱でのスコップの売り上げは知らんが、まあ、そういう事だな。……どこまでが計算された計画かは知らないが、現状ではゴーレムが大量に出荷されている」
実際のところ、魔界にどれだけの資源が眠っているか不明瞭である以上、思ったほどの埋蔵量が無かった場合の保険をかけておくってのは理解出来るが……それがゴーレム販売だって事か……? 仮に最初からゴーレムを売り出すために魔界の開拓を行ったとしたら……とんでもない戦略だな。流石にそれが本命って事はないとは思うが。




