馬車から降りる
「ああ。とりあえず材料だけでも書いておくが……」
「まあ、後は上手くやってくれるだろう。我々は移動するぞ」
俺はかなりざっくりとした説明だけを書いたメモをオリヴィエに渡した。オリヴィエはそれに目を通すと、近くに待機していた御者に渡した。
「お前は積み込まなくて良いのか?」
「私の分はすでに積み込んである」
どうやらオリヴィエは大会に必要な荷物を飛空艇に積み込み終えていたようだ。恐らく前日のうちに準備していたのだろう。
「随分と準備が良いな」
「当然だろう。この日のためにあらゆる状況を想定して最大限の準備をしてきたからな……場合によっては、驚くものが見れるかもしれんぞ?」
オリヴィエは不敵に笑いながら馬車から降りる。よほど凄い道具が手に入ったのだろうか?
「驚く? この前の大会であれだけ戦ったのにか?」
「ああ。あの時では状況的に使えなかった装備があったからな」
「状況って事は、接近戦では取り回しが利かない類の代物か? 使える機会があると良いな」
接近戦で使う機会が無いとなると……飛び道具か何かか? しかし、狭いフィールドだったといっても銃だの弓矢だのを使うだけの広さはあったよな……? という事は大砲でも持ってきたのか?
「フッ、やはり気になるか……」
「まあ、あまりもったいぶられるとな」
「フフフ……それは見てからのお楽しみというものだ」
「……そうか」
多分、滅茶苦茶興味深そうに聞き続ければ教えてくれそうな態度ではあるが……使う機会に恵まれない可能性もあるし、実際に使う時に聞けば良いか。
「え? じゃあ何で興味あるか聞いたの?」
オリヴィエの発言に対し、ミーシャは不思議そうな表情で聞き返してくる。
「教える気は無くても興味があるか無いかだけは一応聞いておきたかったんだろ?」
「じゃあ興味無かったらどうするつもりだったの? そこで話は終わりだよね?」
「そりゃお前……まったく興味が無いって事は無いだろ? 今度の大会で使うかもしれないんだから。それに、俺達がチームを組んで戦う場合だってあるんだからな」
「ふーん……」
「まあ、そういう事だ。ここからは私が案内するからついてきてくれ」
オリヴィエは発着場の中に建っている建物へと向かって歩き出した。俺とミーシャも御者に挨拶をすると、すぐにオリヴィエの後を追った。……実際のところ、俺達審査官がチームを組んで戦う可能性は高いハズだ。運営の視点から考えたら単独で大会参加者の上位五百人相手にまともに戦える人材をそう簡単に揃えられるとは考えているとは思えないしな。俺とオリヴィエにこの話が来たのも、その最たる例だろう。他にもチーム全体を評価して審査官のオファーを出された人達もいたしな。




