結局は飛空艇
「人の移動の主流は陸路か空路か……」
「当然だな。移動に必要な時間が段違いだ。あえてゆっくりした移動を楽しむ場合もあるが……いったい何日前に出航すれば間に合うんだという話だ」
効率を考えれば船で移動するって選択肢にはならないわけか。
「鋼鉄や燃料ならともかく、人間の移動に船は……選ばれ難いか」
「海か川で隔たられていて、橋も無く飛空艇が出ないようなところなら船に乗る事になるな。辺境の地かそこまで遠く無い距離からなら船で来る者もいると思うぞ」
「飛空艇も通ってないような田舎って事じゃねえか……」
「言い方は悪いが、そういう事だな。それでも道中で船を使う事はあってもその後で飛空艇に乗り継ぐとは思うがな」
来る道中で船を使う事はありえるって事か。
「まあ、船に人を乗せて移動とか効率が良いかどうか微妙だしな」
「効率? そんなのだいたい同じじゃねえのか?」
「小舟なら気にしてもしょうがないだろうが……大きい船になっていくと桁違いの重さの荷物を運べるようになるからな。例えば食料なら山積みにして運べるが、人間はそうもいかないだろ?」
「確かにな……」
「つまり、船に人間が限界ギリギリまで乗り込んだとしても、実は重さの許容量としてはまだ余裕があったりするわけだ」
これは単純に隙間なく合理的に積み込まれた資材の類が一番効率よく運搬出来るというわけだ。そりゃあ船に限らず荷物より効率よく人間を運べる乗り物なんて存在するわけないからな。
「もっと重い物運んだ方が良いってわけか」
「そういう事だな」
「おい、そろそろ移動するぞ。それにあまり家族を待たせるのもアレだしな」
オリヴィエが店を出るように促す。
「それもそうだな」
「おう、じゃあ次会うのは会場か」
「会場と言うが、生徒会役員と同じビップ席で観戦するんだろ? 会えるかどうかわからんぞ。まあ、一般席同士の方が会えない可能性の方が高いかもしれんが」
「なんだ、そんな事まで知ってるのか?」
「チケットを入手した本人から聞いたからな。そういえば、お前らって二日目も観戦するのか? そこまでは聞いてなかった」
まあ、ナタクの事だから二日目のチケットもしっかり確保しているだろうとは思うが……一応念のために聞いておいた。
「勿論だな。流石に二日目は入手に苦労したって言ってたぜ」
「……初日はビップ席に余裕があったって事か? ……初日はそこまで注目してないって事か」
ビップ席に座って観戦するような客層となると、火霊祭の上位者と関係の深い人がいても不思議じゃないからな。初日の方にはそこまで興味が湧かないのだろう。
「前哨戦みたいなもんだからな。じゃあな」
俺達はゲイルと別れると、店を出て店の前に待機していた馬車に乗り込んだ。




