飛空艇の話
「国内最大規模ってあれか。あのオバケ飛空艇の事か」
「そんなに有名なのか?」
「ああ、大陸の端から端まで飛行出来るって話だからな。それから海の中も潜れるんだったか?」
人間の行ける場所なら大概どこにでも行ける移動能力ってところか。
「良く知ってるな。海の底から成層圏まで輸送出来るのがあの飛空艇の特徴だ。今回はそれに乗って移動する」
「そんな所に何を送るんだよ……」
「ん? そりゃあ、色々だな。海底や上空の拠点に物資を運んだり……戦力を投入したりだ」
「上空はともかく、海底に戦力なんて投じていったい何と戦うつもりだ?」
オリヴィエの説明に対し、ゲイルはさらに質問を重ねる。……まあ、海中に戦力を配備する技術が存在するっていうなら、その技術を持ってるのが自分達だけって事はないだろうからな。
「それこそ色々だ。海にも魔物は多いからな。海上戦力だけでは下からの襲撃に対応出来ん」
「海の下からの攻撃に対応するためにさらに下に戦力を配置するのか……」
「そういう事だ。空だけでなく海まで立体的な戦術が求められるわけだな」
「そんなに被害が出るのか? 海からの襲撃って」
魔物の被害って言っても流石に船とか港への被害だよな? それとも地上に進出して来たりまでするのか?
「まあ、空中や地上の魔物は人里近くに現れるまでに発見し易いし、何より討伐に向かい易いからな。ところが海となるとそうもいかん。海の底深くに潜まれたら発見も困難だし討伐にも向かえん。いざ戦うとなっても、海上に体を出して貰えねばまともに武器を当てる事もままならないともなれば……海中専用の戦力を用意するのは必須と言えるな」
なるほどな……海の中での戦闘が発生して当たり前の感覚になっているわけだ。その前提なら、海上にどれだけの戦力を並べたところで大した防衛にはならないな。
「人間は数メートル潜るのも四苦八苦するのに、魔物の方は自由自在に潜ったり飛び出したりしてくるわけか。良く船なんて物が発展したな」
「輸送する際の積載量が桁違いだからな。危険を冒すだけの価値があるというわけだ。その危険だって時代が進むにつれて対処可能になってきている。防衛戦力も作られてきたし、戦術も編み出された。比較的安全な航路というのも確立されてきているしな」
逆に言えば、昔はそういうのが一切存在しない状況で船に乗って移動していた時代があるって事じゃないか。




