腐っても鯛
「結果としては逆張りした奴が……いや、実際には優勝者となるその男が逆張りしてたのか」
わかりにくい表現になるが、正しい回答を理解した上で逆の方を選んだわけだからな。最初に逆張りをしたのはそいつって事になる。
「ああ。逆張りをさらに逆張りして正解したわけだな」
「何にせよ、当てられたのなら良かったな。その問題に正解した事で五百位以内に入れたんだろ?」
「その問題が終わった時点で定員割れを起こしたからな。後は残りの人数が揃うまで文字通りの高みの見物というわけだ」
まあ、その問題をクリアした時はかなり安心しただろうな。
「その問題を間違えた大多数の選手の中には、優勝候補もいたんだったよな? そいつらは五百人の中に入れたのか?」
「ん? ああ。そこは流石と言ったところだな」
「なるほどな。そのまま脱落してくれたら相当楽だったろうに……そう上手くはいかないか」
まあ、そこは腐っても鯛ってやつか。
「普通の選手なら前後不覚になるところだろうが……過去に幾つもの難関を乗り越えてきたような選手だったからな。そこで一気に調子を崩すといったような事にはならなかったぞ」
「多少のミスが発生しても、大きく順位を落とすような事にはならなかったわけか……まあ、それくらいじゃないと優秀な魔術師とは言えないだろうし、そういう優秀な魔術師である事を競う大会の沽券に関わるしな」
ミスが発生した時のリカバリーが上手いと言えば聞こえは良いかもしれないが……そもそもやるべきじゃないミスを犯しているわけだしな……そういうところを考えると、大会の上位者でもピンキリと考えざるをえないな。
「初日の午前中こそ波乱の展開が予想されたけど、実際に蓋を開けてみたら危なげない結果に終わったからね」
「それだけ火霊祭の出す結果が正確という事だな」
「まあ、成績上位者が毎年安定して上位に食い込めるなら、年度によって難易度のばらつきが無いと言えるかもしれないが……」
しかし、運営としてはある程度の波乱は起こって欲しいんだよな? ……過去の成績上位者が脱落するような過酷な試験なら、当然実力の追いついていない選手だって脱落しまくるわけだから、結果として上位者が生き残ってしまうという形に落ち着くわけか。
「運の良さによる逆転の要素が無いというのは、一長一短だと言えるだろうな。選手からしてみたら当然そうあって欲しいと思うだろうが……観客からしてみたら実力が拮抗している者同士との闘い以外は消化試合のように思えてしまうからな。結果として序盤中盤はあまり注目されなくなってしまうわけだ」
終盤が最も盛り上がるのは当然として、そこに至るまでの道中で観客から注目されないんじゃ興行としては微妙な結果になりそうだからな。だからこそ毎年毎年何らかのテコ入れをしているのだろうな。今年俺達が審査官として呼び出されているのもそれらの一環として考えるのが自然か。




