空の場合
「ん? 何か見つけたのか?」
「うーん……まあまあかな。今日は予定があるし、買うのは今度でいいかな」
ルーペで細かく観察しながらミーシャは呟くと、持っていた素材を再び棚に戻した。
「そうか。……ところで、海の話はわかったんだが、空の方の研究も進んでいるのか? 色々とわかってる部分は多そうなイメージはあるが……」
「ああ、空なら飛空艇とか気球とかたくさん飛ばせるからね。だから研究は進んでそうってイメージはあるけど……案外そんなでもないよ」
「そういうものなのか?」
空を飛ぶ手段が幾つかある以上は空の探索もある程度は進んでそうなものだが、何かしら問題があるのか。
「うん。深海の調査はそこへ行くのが大変だけど、一度拠点を作っちゃえば補給を持続させる事は難かしくないからね」
「……確かに空中に拠点を作るのは難しそうだな……」
海中のプラットフォームが潜水艇だって事を考えると、空中のプラットフォームは飛空艇って事になるんだろうが……海を漂っていれば何とかなる潜水艇と違って飛空艇は常に上空を浮遊し続ける必要があるからな……難易度は段違いか。
「一応作れない事もないし、実際に空中拠点は国内にも何か所かあるけど……どうしても補給が問題視されるね」
「確かに、食料を後から後から送り込むと考えたら空中はかなり難しいだろうな。その点、海中なら最悪場所を考えて海に沈めるだけでも多少は何とかなりそうだ」
「深海の拠点の場所に合わせて真上の海上に補給艦を浮かべれば良いだけの話だからね。じゃあ、空中拠点はどうかと言うと、真下に補給拠点を作っても輸送は上手く行かないんだよね。物体を真上に打ち上げる技術なんて無いし」
流石にそんな便利なものはないか。
「転送魔法は……無理があるよな……」
「高低差のせいで気圧が違うからね。上空にある拠点で食料が破裂したら大惨事になるね。実際にそういう事故が多発して、転送する前に地上で減圧するってマニュアルが生まれたみたいだし」
まあ、気圧の変化はモロに受けるだろうな……地上で減圧するってアイディアは面白いと思うが、それも問題があるのだろう。
「転送魔法じゃ補給が追い付かないのか」
「飛空艇を飛ばして直接荷物の受け渡しをした方が早いらしいね。特に飛空艇のメンテナンスなんかは修理の材料も含めて運ぶ必要もあるし」
「艇ごと別のに乗り換えるってのは無しなのか?」
「人だけならそれで良いけど、研究材料も全部載せ替えは……相当危険だね。全部上空でやる必要があるし」
確かに……今やってる研究に変な影響が出たらダメだって事を考えると艇の乗り換えは得策じゃないな。研究に区切りが付いたタイミングで乗り換えるって方法もあるが……それとメンテナンスのタイミングを合わせるなんて偶然に頼り過ぎな部分もある。耐用年数に余裕がある段階で乗り換えるなら問題は無いが……そんな安全基準が守られ続けるかと聞かれたら疑問が残るし、研究に区切りが付くのを待っていたらそれこそ大事故に繋がるわけだ。




