死んだ可能性
「角が折れたら狂暴になるってのはイメージしやすいが……折れた事で狂暴になるってよりは折れるような状況に陥ってるから狂暴になってるんじゃないのか? 原因と結果が逆になってるような気がするんだが……?」
生き物が狂暴になる状況を考えると、角が折れて感情の制御がつかなくなるんじゃなくて、感情を抑えている場合じゃなくなった時に角が折れてしまう事が多いような気がするが。
「そうだね。一般的には敵と戦っている最中に角が折れるようなイメージが先行して、特に深い関係があるようには思えないかもしれないけど……種によっては角が折れやすいのもいるんだよね。これは角が何でできているかで変わってくるんだけど……」
「何でできているか……? 角の主成分が違うって事か? パッと思いつくのは骨だが、折れやすいってのを考えると髪や皮膚の変質したものか」
「鋭いね。ドラゴンの中には鹿みたいに定期的に角が生え変わる種がいてね。角が抜け落ちるとコミュニケーション能力が低下しているのがわかったんだよね。まあ、多少落ちたくらいじゃ大した問題にはならないんだけど……角の生えていない個体同士が出会うと衝突する可能性が上がるみたいだよ」
「お互いに意思を伝える能力も読み解く能力も下がってるわけか」
角が魔力の送受信を行っているなら、お互いにアンテナが壊れた状態で意思の疎通をしようとしているわけだからな。確かにそれならお互いに何を考えているのかがわからずに衝突する危険性は上がるかもな。
「そ。それで本来ならお互い同士が魔力の変化を正確に読み合って実力差を把握するから滅多に争いは起きないし、片方の個体が折れてても相手の方がそれを察して距離を置いたりするんだけど……その個体同士の性格次第ではあるけど実際に戦って優劣をつけようとする場合があるみたいだね。これは若い個体同士ならより顕著に見られるみたいだよ」
「だからこの国で暴れた黒龍は他の生物に殺されたって説が浮上してるのか」
まあ、若い個体程血の気が多いと言うか、闘争心が強いってのは想像しやすいからな。
「目撃証言や発見された鱗の大きさや厚さから、まだ若い個体だと推測されていたからね。何らかの理由で角が無くなっていた場合、自分より強い生物と戦ってそのまま殺された可能性は高いだろうね。そういう経験を積み重ねていくと角が折れたら警戒心が強くなったり慎重になったりするんだけど、当然そういう学習をする前に死ぬ個体だっているわけだし、目撃証言が減ったとかそういう前触れも無く急に見なくなったって事はそういう事だろうって言われてるよ」
年月が経つにつれて警戒心が強くなるのが事実だとしたら、突然見かけなくなるってのはちょっと不自然だな。人間相手にちょっと苦戦したくらいじゃとてもそんな事にはならないハズだ。……死んだって可能性は高そうだな。




