ドラゴンの生態
「全身が完全に揃った標本が存在しないとなると、価値は天井知らずになるだろうな。それで? 他にはいないのか?」
「それは何とも言えないね。目撃証言は色々とあるけど……見間違いの可能性もあるし、別の個体なのかどうかの判断も出来ないし」
まあ、当然の話か。具体的にどこに生息しているかわからないんだから、複数の国で目撃されていたとしても同一の個体だと考えられるわけだ。
「そう言えば、この国は国境を障壁で覆っているんだよな? それで居場所を特定したりは出来ないのか?」
「障壁を突破してくれれば特定は可能だけど、初めから内側にいられたらどうしようもないね。それに障壁の突破だって、調査出来るのは外側からの来訪者であって、内側から外側へ脱出されたら追跡なんてお手上げだしね」
「まあ、それもそうか」
国の内部の細かい状況まで把握するのは難しいだろうからな。それって要するに領土全域を網羅できるような万能レーダーが存在する事になってしまうわけだ。流石にそれは無いだろう。それにこれはあくまでも外界からの侵入に対する話であって、外界へ逃げ出された場合は追いかける手がかりも掴めない状態だろう。単純にレーダーの範囲外だろうしな。
「一応、障壁に何らかの形で干渉してくれれば、そこから痕跡を辿ってかつての住処だとか潜伏先を特定する事が可能だからそういう偶然にかける必要があるね」
「二匹目の黒龍の行方と言うか、そういう話が無いまま死亡説が出てるって事は障壁に干渉しないように動いてたって事になるよな? 障壁ってのはそんなにわかりやすいのか?」
「わかりやすいね。避けようと思えば幾らでも避けられるよ。特に一部の魔法生物は魔力を検知する器官を持ってるから、ハッキリと認識出来るね」
昆虫が紫外線を認識をしたりコウモリが超音波で空間を認識するのと似たようなものか。
「ドラゴンも魔力を認識出来るのか」
「そうだね。ドラゴンは角に膨大な量の魔力をため込んでいるんだけど……送受信機として使用したりもするからね」
「送受信?」
「うん。角から放たれる魔力の波動で仲間とコミュニケーションを取ったり、外敵への威嚇に使ったりする事がわかってるからね。これは角の生えたドラゴン全般が共通に持ってる性質だね。逆に言うと、角が折れたドラゴンはそういう他者へのコミュニケーション能力が著しく低下するから一気に獰猛化するよ。……正確には自分の意思が伝わらなくなるから実力行使するようになるって言った方が正しいけど」
人間でいえば突然言葉が伝わらなくなるようなものか。




