他の個体
「まあ、死体丸ごと一つと白骨化した死体一つとじゃ調べられる情報量が段違いだろうな。……そう考えると、完璧な状態の死体なんてものがもしも存在するなら、確かに天文学的な価値が付くだろうな」
言ってみれば状態の悪い死体ですら博物館に展示されるレベルの希少性なんだ。ましてや状態が良ければ価値は桁違いに跳ね上がるだろう。
「実際には値段なんて付けようがないけど……あえて付けるとしたらそうなるだろうね」
「そう言えばこの国にも鱗が一枚だけだが存在するんだよな? その真贋ってのはどうやって判明したんだ? それとも、発掘した物の一部が譲られたのか?」
「いや、討伐されたのとは別の個体だね。黒龍からの襲撃に遭って壊滅したとされる街を探索したら発見された鱗で、発掘された物と比較して本物だって鑑定されたんだ」
「……それって、黒龍討伐の件があった後の話か? 黒龍が討伐された後にこの国の街が襲撃されたって話をしてるのか?」
その場合、黒龍が一匹だけじゃないって事実の判明だけじゃなく、他の個体が今現在も生きている可能性を示唆しているんじゃないのか?
「そうだね。同一個体じゃなくて別個体だと断言されているのも、討伐された死体が博物館で保管されているからだね」
「その、新しく発見された黒龍って……討伐されたって報告は無いんだよな……?」
「無いね。だからこそ本物だと発覚した時は大騒動にまで発展したみたいだよ。その後も目撃情報は世界中でそこそこあったけど、ここ最近は全く聞かなくなったから死んだんじゃないかって説が出てるけど……」
「それ、黒龍すらも倒せる更なる怪物が存在してるって事にならないか?」
「まあね。だけど、新しく発見された方の個体は、鱗の大きさとか目撃証言とかからかなり若い個体だとされているから倒せる生物がいてもおかしくはないかな」
討伐された個体と比べたら小柄で弱いと考えられているのか。
「生物である以上は弱肉強食に従っているのか……」
「まあ、重要なのはその個体の強さっていうよりは、別個体の存在の発覚なんだけどね。他にいる可能性だって出てきちゃったわけだし」
「今後も襲撃が起こりえると考えたら、対策は必須だな」
「当然、他の個体が存在する事がわかっているからには、その素材を欲しがる人だって後を絶たないね」
まあ、そこは別の個体が存在するという事実に対して、不安や恐怖が勝つか欲望が勝つかって話だな。




