黒龍のその後
「他にそれらしい理由がないなら、そこから市場に流れたって事にするのが一番自然だろうな。……実際のところ、その時に討伐された黒龍ってどうなったんだ?」
「討伐した証拠として一部は切り落として、残りは地中深くに埋めちゃったみたいだよ。なんてもったいない事を……って、言いたいところだけど、当時の人々の心情を考えたらしょうがないかな」
世界中を荒らし回ったドラゴンって考えれば当然の事か。下手に野晒しにしようものなら呪いだの何だので変な噂が出てきたりするかもしれんしな。せっかく苦労して討伐したのに、死体相手にまた治安を乱されたら堪ったものじゃないな。
「流石に不吉だろうからな」
「うん。まさにその理由で再発掘に時間がかかったみたいだね。おかげで体の殆どが骨になっていたみたいだよ」
「再発掘って……掘り返したのか?」
「ドラゴンの研究は続けられているからね。それで掘り返すべきか触れてはいけないかで色々と紛糾したみたいだけど、結局は再発掘されて研究は一気に進んだんだ」
まあ、黒龍の事について調べてみれば弱点とか生態とか色々とわかる事もあるだろうからな。同じ種のドラゴンがまた人類を襲う可能性が存在する以上は、ちゃんと研究して対策を考えておいた方が良いだろうな。
「……で、いざ掘り起こしてみたら白骨化していた。と」
「そうだね。これは研究って意味でも人類にとってかなりの損失だったね。歴史上でも大きな過ちの一つだとされているし」
「もっと状態が良ければさらに優れた研究結果が出されたって考えれば計り知れない損失だったろうな。……だが、まあ、こう言っちゃなんだが、白骨化していて良かったとも言えるな」
「……? なんで?」
俺の言葉に、ミーシャは訝しげに聞き返して来た。その表情はほんの僅かだが、不機嫌さが見え隠れしていた。
「逆に、発掘した黒龍が白骨化どころか腐敗の形跡すらも一切見られなかったらどうなってたと思う? それこそ触れるべきじゃなかったって論調が逆転してたと思うぞ?」
「それは……」
「多分だが、白骨化していて学者達は逆に安心したんじゃないか? れっきとした生物なんだと確信が持てたわけだからな。それなら何も恐れることなく研究を進める事が出来るわけだ」




