アットホームな雰囲気
「……とりあえず、説得は失敗って事で終わりで良いですか? そろそろ予定に間に合わなくなってくるんですが……」
「え? ええ、そうね。これだけ説得して無駄ならもう諦めるしかないわね」
「それなら、すぐに生徒会室に戻りましょう。まだまだ仕事は山のように残っているんですから」
これ以上の説得はやるだけ無駄と判断したのか、生徒会室に戻るような様子を見せ始めている。
「駄目だったかぁ……」
「これ以上彼らの邪魔をしたら悪いから、さっさと戻るわよ。じゃあ、そういう事だから私達はこれで出ていくけど、例の件、任せたわよー」
風紀委員長を引っ張るように会長は部屋から去っていく。その去り際に俺に向かって念を押すように頼みごとをしてきた。
「ようやく出て行ったなあの人達……」
「良し、俺達も活動を再開するぞ。粘土の様子はどうだ?」
「良い感じに固まってますね。余ってる粘土の量も休日に買い足しておけば問題なさそうです」
「あー、買い足すなら絵具も何色か買った方が良さそうですね」
生徒会役員達がいなくなると、ドラゴン研究同好会の人達も活動を再開し、お互いに意見を交換し合う。
「あのー、私そろそろ用事があるんで……」
「ああ、そう言えば用事があるんだったな。じゃあ、ミーシャはもう上がって良いぞ。おいお前ら! ある程度作業が終わったら他の材料の残りも確認しろよ。休みの日にまとめて買うからな。具体的に何をどれだけ買うかは予算を考えながらこれから話し合うぞ」
部長らしき人……同好会なら会長か? とにかく三年生の先輩が周囲の人間に指示を飛ばす。
「じゃあ、先に上がりまーす」
「おつかれー」
ミーシャはエプロンを脱ぐと、制服に着替えて鞄を持ち他の会員達にあいさつをする。
「ほら、せっかくだから一緒に行こ?」
ミーシャは部屋から出る前に俺も一緒に部屋から出るように促す。
「ん? あ、ああ」
確かに俺がここに残ってもミーシャ以外に知り合いがいないからな……部屋を出るなら今が丁度良いだろうな。
「なんだ、用事ってデートかよ?」
同好会の会長と思われる男がからかうようにミーシャに話しかける。
「まあね」
「ヒューッ、あんまりドラゴンの事を熱く語り過ぎて引かせるなよ?」
「いや、あっちはこれから飛空艇に乗る予定でしょ」
相手の冗談に乗っかるミーシャに、男はさらに笑いながらアドバイスを伝えてきた。それに対して他の会員からのツッコミがようやく入った。
「バッカお前ぇ、遠恋の前のデートだろ。これだからモテねえ奴は……」
「何が遠恋だよ。むしろ観戦デートしろよ。お前だってモテねえだろうが」
会長と思われる男は心底呆れ返ったような口調で会員を諭そうとするが、会員からの正論がカウンターとして飛んでくる。部屋の中が笑いで包まれる中、俺とミーシャは部屋を出た。




