ナタクの処世術
「えっ、私が悪いのでしょうか……?」
「えぇ……? だってデートするために呼び出すんでしょ?」
「あ……! そ、そうでしたね! 私ったらお兄様に無理をさせていると言うのになんて他人事のような事を……!」
カルラは最初、何を言われているのか理解していない様子だったが、俺が会場に向かう本当の理由が伏せられている事に気が付くと我に返ったように慌てて誤魔化し始める。
「は? デートって何?」
「こいつが勝手にそう言ってるだけだ」
「お兄様ったら……そんなに照れなくても良いですのに……」
一緒に買い物をする約束をしているだけだろうが。
「え? 君、そんなわがままを聞くためだけにあの会場に行くつもりだったの? お兄ちゃんっていうのは大変だね」
俺が会場へ向かう理由を聞くと、ナタクは少しだけ驚いた様子で俺に訊ねてくる。そして仕事の同僚の愚痴を聞いた時の反応のように俺に接してくる。……そう言えばナタクはそこら辺の事情を知らないのか。会長達だってわざわざそんな事を言いふらすわけないしな。
「……あの、先輩? 誰がわがままを言ってるって言うんですか?」
「えっ!? い、いやー……やだなー……良い意味でわがままを聞いてて大変だなって言ったんだよぉ……妹のわがままに付き合うお兄ちゃんって意味でさ。そんな、まるで僕がせっかくの休日なのに妹に引っ張り回されてスケジュールを潰されるなんて可哀そうだなぁ! なんて思ってるわけないじゃないか!」
思ってない割には随分と流暢に回る舌だな。
「……お兄様は私とのデートを抜きにしても大会を観戦するつもりでしたよ?」
「そ、そうだよねー! 大会を観戦している間、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ時間が空いている時にデートをするつもりなだけだったんだよね!? 可愛いわがままじゃないか!」
そう言いながらナタクは引きつった笑顔で必死にカルラと話を合わせていく。




