移動の条件
「え……? 背もたれが倒れるって……椅子に座りながら寝るの……?」
「そういう事ですね」
「それでちゃんと眠れるの? そんなの仮眠くらいしかした事無いわよ?」
「まあ、眠れるかどうかはその人次第ですね。個室が用意されてない以上は周囲の物音とかも聞こえるハズなので、気になる人は一睡も出来ないと思いますよ」
格安の飛空艇に乗った事の無い会長からの質問に、ナタクは淀みなく答える。
「周りの人も寝てるだろうから静かだとは思うけど……隣の人とのしきりとかも無いの?」
「あるわけないじゃないですかそんなの」
ナタクは『逆に何でそんなのがあると思ったんですか?』とでも言いたげな態度で受け答えをする。
「そ、そうなんだ……」
「ああ、それから……まあ、彼は七時にこの学園を出発するつもりなので飛空艇に乗る前に食事を済ませると思うんですが……格安飛空艇では椅子に座りながら食べる事になります」
「えっ、椅子に座って食べるなんて当たり前の事じゃない。……え? その椅子って移動中座ってる椅子? 飛空艇に乗ってから降りるまでずっと一つの椅子に座り続けるって事?」
「その通りです」
「そんな……馬車で移動するんじゃないんだから……」
会長はそのあまりにもの過酷な移動手段にドン引きしながらナタクからの説明を聞く。……正直、俺からしてみたらそこまで過酷か? って思うところだが……この人達の中では常識外れの移動手段なのだろう。
「安いってのはそういう事ですよ。しかも睡眠時間と被る真夜中での移動となると好き好んで乗る客も減るのでただでさえ安いのに余計に安くなります。まあ、相当しんどい思いをしながら行く事になりますね」
「プライバシーの欠片も無い旅路ね。そんな大変な思いをしてまで旅行するだなんて……カルラちゃんも罪な事をするわね」
会長からしてみたら、俺の会場へ行く理由はカルラと一緒に買い物だの何だのをするためだからそういう解釈になるのだろう。




