説得開始
「活動中お邪魔するわよ」
会長がドラゴン研究同好会の活動部屋のドアをノックし入る。説得のチャンスは今このタイミングしかない……俺からしてみてもこのタイミングより後に説得に来られる方が厄介な事になるので特に止める事なくついてきた。
「会長……? どうしたんですか急に?」
生徒会長を筆頭にした生徒会役員の突然の来訪に、同好会メンバーの一人が驚いた様子で反応する。
「ちょっとプライベートな用事があってね。……ミーシャちゃんっている?」
「……ミーシャに何の用が……? お前何かやった?」
「何もしてないね」
名前を呼ばれたミーシャが会長達の前に現れる。デニム製のエプロンを着て絵具が付着したような汚れが目立つ。部屋の奥の方を見るとドラゴンの牙や頭骨だと思われる標本やドラゴンに関する資料集、粘土細工等が散乱していた。どうやらドラゴンの模型もしくは復元図を作ってたようだ。
「え……何これ……エプロン姿のミーシャちゃん可愛すぎるでしょ……!」
「あの、要件があるならさっさと済ませて貰えませんかね? コレの製作で今忙しいんですよね」
口元を手で押さえて感動している風紀委員長に対してツッコミが入る。
「明日の事なら断ったけど……」
「まあまあ、もう一回、もう一回だけ考えてみてくれないかな? ほら、皆観戦しに行くって言ってるよ? 彼も。……まあ一緒には行かないんだけど」
怪訝な表情で会長と風紀委員長に対してぶっきらぼうに答えるミーシャだったが、それを見かねてかナタクが説得を開始する。
「え……? 何やってんの……?」
ミーシャが俺の存在に気が付くと訝し気な表情で見つめてくる。……勿論その理由はわかる。今夜この国を出発する癖に何で明日出かける説得をしに来てるんだ? って話だからな。
「俺も観戦に誘われてな。俺は俺で会場に行くつもりだと伝えたんだが……その流れでここまでついてきた」
「ふーん。私は大会になんて興味無いよ」
「そ、そんな事言わないで……ほら、お前らからも何か言うんだ」
「いやー、興味無いならキツイでしょ」
俺にとって問題なのは夜になっても説得しに来られて、不在なのが発覚してしまう事だけだからな。ここで諦めてくれるならそれが一番楽だ。




