厄介な相談
「とうとうこの日が来たか……」
金曜日の放課後、俺は独り言を呟いた。火霊祭の二日前……つまり、開催地への移動が行われる日だ。
「とりあえず、新聞を読む限りでは大きなニュースは出ていないな」
俺の独り言を聞いたオリヴィエが俺に話しかけてくる。
「流石だなそういうところは。お前今日は部活だっけ?」
「ああ。当然いつものように部活へ向かう。ミーシャも同好会だが似たようなのがあるから、自由時間があるのは貴様だけという事になるな。今日の予定はわかってるな?」
「勿論だ」
新聞を毎日チェックしたが、審査官の情報がすっぱ抜かれた記事は出ていなかった。全員情報を守り切ったのだろう。もっとも……まだ安心は出来ないがな。
「じゃあな。このままだと部活に遅れるからな」
オリヴィエはいつものように部活へ行った。
「あ、あのー……お兄様……」
オリヴィエもいなくなったし、俺もしばらくは自由行動だなと思った矢先、カルラが申し訳なさそうな声色で俺に話しかけてきた。
「ん? どうしたんだ?」
「実はご相談したい事が……」
「相談? 別に構わないが、生徒会の仕事が終わるのは何時頃になる?」
「それが、その生徒会に関する事でしてですね……」
生徒会関連で俺に相談したい事が? 直近で何かいつもと違う事を生徒会がするとしたら……火霊祭に関する内容だな。
「大会に向けて何かしでかすのか?」
「た、端的に言ってしまえばそういう事に……」
「……で、いったい何をやらかすつもりなんだあの人達は?」
「それが……実は会計の上杉先輩が追加でさらに席を確保しまして……」
「席を増やすってのはつまり……座る奴を増やすって事だよな……?」
生徒会メンバー全員分の席はすでに確保済みのハズだ。そこから更に増やすって事はつまり……生徒会メンバーの知人友人の類も呼ぶって事を意味する。そうなると当然、ある不安が脳裏をよぎる。……と、言うか、カルラが俺に相談するって事はそういう事だ。
「はい……つまり、他の人も呼ぼうという話になりまして……結論を言いますとお兄様も誘おうという話に……」
「……二年とか三年の知り合いを呼べば良いだろう……? どんだけ枠増やしたんだ?」
「いやー……それが上級生は選手として出場していたり家族と一緒に観戦する等で人数が揃いそうにない事がわかりまして、それで一年生を呼ぼうと……」
「しかし……オリヴィエが家族と一緒に観戦する予定なのは会長も聞いてるハズだろ? 一年生だろうと集まりが良いって話にはならないだろ。というか急すぎないか?」
そこら辺の話はしたハズだぞ? 別に嘘ってわけでもないしな。
「それが……上杉先輩がお兄様を呼ぶ事に対して『呼べば来るでしょ』と言い始めまして……」
「あの人か……」
なんでこういう時に限って俺の分まで用意してんだあの人は。
「それで人が多くなればオリヴィエさんもこっちの席に座るんじゃないかという話になりまして……」
「いやならないだろ……家族で席を取ってるんだぞあの家」
「そういう話もちゃんとしたのですが……その、じゃあ私がお兄様をお誘いしないのはおかしくないか? と疑われまして……」
「……マジで厄介な事をしてくれたなあの人……」
俺が実は審査官として出場する事をナタクに知られると、また賭けのオッズを操作して来そうで嫌だから徹底的に情報を隠し通していたが……まさかこんな形でぶっ刺さるとはな……ある意味ナタクでさえもこの情報は把握しきれていないという証左にもなっているが、こんな事になるなら伝えておくべきだったか? ……いや、まだ悲観的になっている場合では無いな。




