裏面への放出
「肌身離さずってのは心意気とかそういうのじゃないのか?」
「多分そうだな」
曲解しているって自覚はあるのか。
「……まあ、俺がとやかく言っても仕方ないか。とりあえずお前らは全身に武器を着込んでるって認識で良いんだろ?」
「私の場合は武器と言うより火薬だが……その認識で良いぞ」
「物騒な一族だな。お前は染料に細工をしているわけだが、お前以外の連中は全員ハンマーで服に魔法を仕込んでいるのか?」
「ハンマーを使っているのはお母様だけだ。他にも方法はあるからな。例えば姉上は杖を使って同様の魔法を使う」
「杖だと厄介そうだな。ガラス細工にも魔法を仕込めるって事だろ?」
まあ、杖だとしても思い切り叩く必要があるのかもしれないが、ハンマーよりは物を壊さずに魔法の付与が出来そうだ。
「ああ。姉上ならばあらゆる物に魔法を付与出来るな。さらに厄介な事は……いや、さらに『凶悪』なのが接地面以外からの解放が出来るという点だ」
オリヴィエはわざわざ表現を訂正し直して特徴を付け加えて説明した。
「穏やかじゃない言い回しだな?」
「そりゃあそうだろう。姉上だけは窓ガラスに魔法を付与した場合、その裏面から魔法を放出出来ると言えばその凶悪さが理解出来るだろう?」
「……実質的には、物体を透過して魔法が飛んで行くように見えるな」
「ああ。その通りだ。その際、透過する媒体の強度は完全に無視出来る事になるのだが……盾や鎧でこの現象が発生したらどうなると思う?」
「鎧の外側で受けたハズの攻撃が……内側から炸裂する事になるのか……」
それは……凶悪という表現を使うのも頷けるな。
「その通りだ。その深度がどれ程なのかはわからないが……つまりどれだけの厚さの物体までなら透過して解放出来るのかはわからないが、少なくとも姉上の持っている杖に触れるのは危険極まりないと言わざるを得ないな」
生半可な厚さの鎧だったら通り抜けて爆発が発生するってわけか……あまり想像したくない攻撃方法だな。
「ゴツい装備を着れば着る程、的がデカくなるようなものだな? まだ身軽な装備の方が勝算がありそうだ」
「一応、魔力そのものが透過しないように遮断するような素材でコーティングすれば対策は可能だが……この場合表面が剥げたらアウトだからな。鎧や盾の内部に遮断材を埋め込むまでの事をしないとちゃんとした対策とは呼べんな」
ほぼその人専用の対策が必要になる魔法かよ……厄介この上ない話だ。




