具体的に誰がやっているのか
「趣味……まあ、趣味だろうな」
「……? 何だ……? もしかしてお前の知り合いにいるのか?」
やけに事情に詳しい上に、趣味だと断定する様子から見て、聞いた話とかじゃなくて実際にそういう奴を見た事があるって様子だ。
「知り合いと言うか……母親だな。お母様がエーテルを気体の状態で好んで扱うんだよ」
「母親が……?」
「ああ、そう言えば貴様は会った事は無かったな。滅多に家に帰って来る事も無いしタイミングが合わなかったのだろう」
オリヴィエの口振りからして、ここ最近では会った事がある様子だな。まあ、由緒ある大会で優勝したのに帰って来ないのは親としてどうなんだって話になるから、帰ってきていたのだろう。
「なるほどな。確かに個人でアホみたいな量の魔力を求めるなんて普通の家の人間じゃないな。だが、お前の家だったらもっと質の良い物を事前に用意出来るだろ? なんで気体の状態で精製するんだ?」
「それは単に精製を始めてから実際に獲得できるまでの時間が短いからだな」
「事前に準備するよりもそっちの方が良いのか?」
「一長一短はあるが、お母様はメリットがあると判断して使っているな。あるいは、デメリットが自分にとって薄いと感じているのかもしれないな」
わざわざ質の悪い物を粗製乱造する事にメリットなんてあるのか?
「メリットはわかるが……どんなデメリットが?」
「短所は簡単だ。すぐに精製出来ると言ってもそれでも時間は必要なわけでな。その時間が惜しい場合は質の良いエーテルを使うべきだろう。……で、お母様は戦闘を想定しているわけだ」
「しかし、戦闘を想定する場合は質の良い魔法薬を使うものなんじゃないのか?」
この話は、少し前に言及していたよな。
「それは自身が突発的に戦闘を行う場合だ。お母様の場合、立場上多少の時間稼ぎは期待出来るわけだな。具体的には屋敷や拠点が襲撃された場合、他の者に時間を稼がせて、自分自身は魔力の精製を行うわけだ。そうやって精製された魔力は自分で使っても良いし、他の者に使わせても良いわけだ」
「……まあ、自分のところにまで辿り着く頃にはそれなりに時間がかかると思っているなら問題は無さそうだな」
「ああ。例えば賊か何かが襲撃を仕掛けてきたという報告を受けたとして、その時点で精製を開始していれば対処は間に合うと言うわけだ」
その場合は確かに、活用するタイミングが不定期にならざるを得ないな。




