もう一人の天才
「ん? こちら側って事はお前の知り合いなのか」
「ああ。結論から言うとフィリパの兄上だ。あの人が姉上に匹敵するであろう錬金術師になる。恐らくだが……国内でもトップクラスになるハズだ」
「あの人が……いや、素顔を見たわけじゃないが……」
「私も直接見た記憶は無いな。一応、お姉様やフィリパの持ってるアルバムには素顔が写った写真があるから……それで昔の顔なら見た事はあるが」
俺はガスマスクを装着しているところしか見た事が無かったが……まさかオリヴィエも素顔は見た事が無かったとはな。
「あの人がそんなに凄い錬金術師なのか。錬金術とほとんど関係ない仕事をしているように見えるが……」
「いや、そうでもないぞ? 新しい武器の製造や開発には錬金術が用いられる場合があるから専門知識が求められる事は多い。直近だとゴーレムの開発で目覚ましい実績を上げているしな」
「ゴーレムの開発って言うと……サイクロンだとかハリケーンだとか言ってたあの人形集団の事か? アイスヴァイン領で見かけたが……」
「なんだ、見た事あるのか。あそこにあるのは確か初期生産型の試作品だったかな……あのゴーレムの開発をしたのがフィリパの兄上だ。因みに、素材から錬金術で作った完全オリジナルらしい」
……あの騒がしいゴーレムをあの人が作ったのか……まあ、明らかにゴーレムって感じの見た目や性能じゃなかったから、それだけ普通とは一線を画す天才なんだろうとは思うが。
「あれを見せられて『錬金術の天才』と言われても納得しかねるが……」
「言いたい事はわかる。が……事実は事実だ。ボディもそうだが、特にコアに当たる部分に途轍もない技術がふんだんに用いられているらしいな。……そしてもっと恐ろしいのは、あれが作られた年代と開発までの記録を逆算すると、十代前半の時点で開発に着手しているという事だ」
「十代前半……? そりゃあ驚きだな……」
「ああ、私くらいの年齢の時には人間型のゴーレムを作れていたらしいからな……入学前から学生レベルは完全に超えていたようだな」
……まあ、天才って表現に対しては一切の反論の余地も無いが……それはゴーレム作りの天才であって、錬金術の天才とは少しズレているようにも思えるな。
「それだけの技量を持った上で錬金術の天才って呼ばれるって事は、錬金術に関してはもっと凄い能力を持ってたってわけか?」
「それは……何とも言えんな。正直ゴーレムと錬金術なら錬金術の方が評価されやすいからな……しかし、錬金術師としての功績も相当なものだ。錬金術師の作る魔法薬にエーテルと呼ばれる物があるんだが……簡単に言えば魔力を急速回復させる魔法薬だな。これの超高品質なエーテルの精製に成功している」
「それが凄い事なんだろうってのはわかるが……言葉だけじゃいまいち伝わらんな」
「だな。例えばで言うなら……あれだ。燃料で言うなら薪と油くらい違う。それくらい品質の違うエーテルを作れるとの事だ」
木炭とか石炭とか通り越して油かよ……しかし、そこまでの表現がされるって事は国内でもトップクラスとオリヴィエが評するのも当然だな。




