天才錬金術師
「錬金って……そういう方法でも材料を作ったりするのか……」
「ん? ああ、そりゃあ天然資源なんて待ってたらそれこそ何百年かかるかわからんからな」
錬金術で人工的に新しい素材の開発とかもしてるのか……確かにしていてもおかしくはないな。材木や鉱石の類ならともかく……必要な素材が全部安定供給されるとは限らんし、人工物の生成の方面にも力を入れておくのも当然の選択だ。
「人工的に新しい素材を開発するのは理解出来るが……その最先端にいるのがあの人なのか? お前の話だと、魔力の量が桁違いだってのは聞いたが……」
オリヴィエの『姉上』って人には一度だけ会った事がある。確か産まれながらの魔力量が桁違いなせいで成長スピードが常人と異なり、まだ幼い姿をしていた人物だ。最初に会った時はオリヴィエの姪か何かだとばかり思っていたが……錬金術に関しても精通していたのか。
「ああ。その人で間違いない。私の知る限り……では、甲乙付け難いがヴィンクラーの中で姉上ほど錬金術に長けた人はいないからな」
「それって直接の血筋の中でって意味か? ヴィンクラー領の中でって意味にも取れるが」
「まあ、両方の意味でだな。聞いた噂では他にも常識の埒外の領域にいるような錬金術師がいるとは聞くが……実際に見たり会ったりしたわけではないからな」
「身内贔屓とかは無いものと考えて、お前の会った人物の中で一二を争う程のレベルに到達している錬金術師なわけか。そりゃあ周囲からも期待されるわな」
そんな一握りの天才が画期的な新素材を開発するかどうかに今後の技術発展のすべてがかかっているってわけか。魔法ってのも、来るところまで来て煮詰まっているみたいだな。
「だろうな。何せ次期当主の筆頭候補でもあるのだからな。錬金術師としてだけでなく、魔術師としても、公爵家の血を継ぐ者としても期待されているわけだ。ヴィンクラー家最高傑作の重責など私ごときには想像もつかない世界だな」
「……本人の感じる重責を完全に無視するのであれば、これからの未来は明るいみたいだな」
「まあな。幸か不幸か、姉上に匹敵する錬金術師もこちら側の人間だというおかげで、公爵家が他の家に後塵を拝するという事態には陥らないのが救いだな」




