タッグデュエル
「お前らタッグデュエルのルールは把握しているな」
「一通りは」
確か基本的にはデュエルと同じのはずだ。違いはパートナーのどちらかが戦闘不能になった時点で勝負が決着となる。だったな。
「……わかった。ジャッジは私がやろう」
「身内贔屓は……まあ心配ないわね」
「当然だ。それから天蓋、ひとつ忠告しておく」
「なんです?」
「わかっているとは思うがタッグデュエルも基本的には一回勝負だぞ」
「……!?」
なん……だと……!? まさかこれもマッチ勝負ではないとは。
「……わかりました」
「やはりマッチ勝負だと思っていたのか」
「……」
普通はマッチだと思うだろ。
「マッチ勝負ぅ? ははははは! 聞いたかよ」
「ああ、実戦じゃあ次なんてないのにな。こんなアマチュアとデュエルしなきゃならないのかよ。泣けるぜ」
「ふ、本物と偽者の区別もつかないとは……道理で話が通じないわけだ」
「何だとぉ!?」
「どういう意味だ!?」
「違いのわからぬ男などと何を話せというのです? 男を下げるだけでしょう」
「この糞ガキが! ぶっ殺してやる!」
餓鬼だと? なんだ、よくわかってるじゃないか。ま、結局は正しい意味じゃないんだろうがな。
……それにしても、この程度の挑発に乗るとは、世界大会はずいぶんと上品な奴の集まりのようだな。
「さあ、早く移動しましょう」
「後悔させてやるぜ」
「……オリヴィエ、耳を貸せ」
「なんだ?」
オリヴィエが頭を近づけてくる。
「開幕でプロミネンスを発動するな。恐らく読まれているぞ」
「どういうことだ? なぜそれがわかる」
オリヴィエが聞き返してくる。
「簡単な話だ、ハンデとしてならパートナーを自由に選ばせるはずだ。それをしなかったということは、もともと相手の目的はお前と委員長だったということだ。つまり手の内は完全に対策されている」
「なるほどな、たしかにプロミネンスの対策法は存在する。爆心地を完全に読み取り、その周囲に水属性の魔法で包めばいい、それで威力は激減する」
「そうか水属性か、どちらかあるいはどちらもがその戦略で来るだろうな。あの二人について何か知ってるか?」
「いいや、何も」
ふーむ、それは困った。もっと情報がほしいところだが、まあ何とかなるだろ。
この俺に対していくら知らぬ事とはいえ、水で攻めるなどという愚行を犯すならば容赦はしない。
◆◆◆◆◆◆
アリーナのデュエルフィールドへたどり着いた。とんでもない数のギャラリーだ。恐らくさっきの話を聞かれたようだな。
「これはおいしい話だ」
「ああ、名門貴族の令嬢がわが部に入ればいろいろと有利だからな」
「よし、ではチームともフィールドへ」
相手がフィールドへ上がった途端大声援が吹き荒れる。流石に世界で活躍しているだけの事はあるな。
「聞こえるか、俺たちのファンの声援が」
「ええ、ファンを悲しませることになるなんて、罪な方たちだ」
俺に対してナイフを威嚇で投げつけてくる。片方はナイフ使いか。ナイフは俺の顔の横を掠める。わざと当たらないように投げたならいい腕だ。しかし少し遅いな。
「次は当てるぜ」
再び投げてくるがジャッジによって防がれる。
「次は反則とみなす。そして天蓋もこれ以上相手を煽ったら反則だ」
「はい」
俺に対してブーイングが起こる。まあ当然か。フィールドに障壁が張られる。そろそろか。
「それでは、デュエル開始!」
デュエルが始まった。そして予想通りに相手は両者ともに水魔法を使用してくる。
「「水鱗!」」
「あーっと開始早々先手をとったのはマルクス選手とテリアル選手だー!」
なんか実況ついてる。
「おかしいですね。オリヴィエ選手が先手を取らないのは」
「たしかに、今までの大会のデータでは先手必勝で一気にけりをつけることが非常に多いのですが」
「しかし、プロミネンスを発動していてもあれでは防がれたでしょうね」
「読みきっていたと!?」
「事実がそうあらわしています。でも」
「でも?」
「障壁は水をさえぎり地面に溜まる。このままでは全員水没、溺れますよ」
その通り、このままでは、水の量が増え続けるだけだ。
そしてこちらの動きは鈍くなるが向こうは得意分野。かえって速さはあがるだろう。
「どうした口だけか?」
「ふん、この程度の小細工、経験がないと思ったか。
万物を灼く漆黒の焔よ、我が魔導の根源を糧に!
目覚めの刻は訪れた! 陽炎の柱よ、組み上げよ、倒壊せよ、敵を遮れ、閉じ込めよ、碑文を焚き消せ!『陽炎之柱』!」
え? 何その呪文? そんなのあったっけ? ただの中級レベルの魔法だよな? しかも黒く変色しただけで火力低くないか!?
「これはいったいどういうことでしょう?」
「まったくわかりません。なぜ意味のない言葉を綴ったのでしょう?」
「でもかっこよくないですか? 黒い炎ですよ?」
「それ、デュエルと関係ありませんよね」
だよね? 俺が正しいんだよね? 俺と戦った時あんな事言ってないし。
「あーこれはすごいですね、水蒸気爆発が発生しましたよ。味方ごと吹き飛びましたね」
とはいえダメージは誰にも通らなかったようだな。流石水の扱いに長けているだけのことはある。
恐らく短期決戦型のオリヴィエに対抗して長期戦を仕掛けるつもりだろうな。あえて受けてみるか?
……。
◆◆◆◆◆
「何? タッグデュエル? 誰と誰が……天蓋君とオリヴィエ? マクシミリアン君は? 保健室? 相手は? マルクスにテリアル?」
マクシミリアン君から通信があった。何でも剣術部といざこざがあったらしい。
全員にオープンチャンネルで通達する。
「全員に通達。体育館で問題発生。手の空いてるチームは至急AとBブロックへ移動」
「ナタク、デュエルは誰が見届ける?」
「必要無いな。結果は見るまでもない」
「確かにあの二人は世界大会でも通用するレベルだからな」
「何? 何の話だ? あの二人は水属性だろう? ならば天蓋君に勝つことは不可能だ」
「それって」
「後で説明する。オーバー」
大きく溜め息をつく。とはいえあの人なら穏便に済ませるだろう。
「あの、坊ちゃま」
「校内で坊ちゃまは止めろ」
「失礼しました! ナタク様……本当によろしいのですか?」
「なにがだ」
俺は我が別荘で雇っている執事見習い、ここではただのクラスメートということになっている。夜叉の酒々井慶介に話しかける。
「あの、ヴリトラ……いえ、天蓋様が絶対に勝つといってしまって」
「まさか負ける可能性があるとでもいうのか?」
「あの男が危険なのはわかります。ですが、その根拠は帝釈天様を倒しうるという事実のみです」
「なんだと?」
「帝釈天様を倒したことのある方など他にもいらっしゃるでしょう。カルラ様やメーガナーダ様に至っては圧勝ですよ?」
「……」
「ヴリトラとはそれ程恐れなければならない相手なのですか?」
何故だ? 何故そんな言葉を吐くことが出来る? そんなにも簡単に忘れることが出来るものなのか? あの惨劇を、身の毛もよだつあの戦争を、文字通りの、本来の言葉通りの意味の修羅場を。
知らないとは、当事者ではないとはここまで無頓着なものなのか? 言葉や情報だけで真実にたどり着けるとでも思っているのか。
「お前、どこまで知ってる? ヴリトラのことを」
「え?」
「あの能力を理解しているのか!? その上で言ってるのか!? わかってるのか、能力の行使、ただそれだけで、たったそれだけで文明を滅ぼせるんだぞ!?」
「ですが、乾かすという能力でしょう? それだけで」
「インダス文明や黄河文明がなぜ発展したかわかっての発言か!? 水があったからこその発展だぞ! 奴はその水を枯渇させる能力を持っている。そして!! 水が人間の体内の何割を占めているか知ってるか」
「まさか、そんなことが」
「個人が組織に勝つことはできない。常識的なことだ、しかし奴は違う。文明を滅ぼすんだ、組織など維持できるはずがない」
組織ではダメなんだ、個人が、たった一人の英雄でなければ奴の敵にはなり得ない。そして個人の力では奴のもう一つの能力には太刀打ちできない。
奴の蘇生能力には……。




