流行りの騎士道精神
「……さしあたって、俺は武術家を相手取った方が良さそうだな」
「いや、こいつは私が倒す」
「なんだ? 随分こだわるな?」
「当然だろうが……! この私を相手に手加減など……! この男は私がなますのように切り刻んでやる」
自分が手加減されてんの気づいてたのかよ……まあ当然か。それにしてもこの男面倒な真似をしてくれる。わざわざオリヴィエのイラつきそうなことを……もしかしてわざとか? いや、武人っぽいこの男の性格から考えるとそういう小細工を仕掛けてくるとも思えない。相方からそそのかされたとしても実際にやるとしたら何かしら不本意そうな表情をさせるはず。ところがこいつの表情にそんなかげりは一切見て取れない。俺の考えすぎか……?
「少し落ち着けよ……こいつの相方を見てみろ。お前の魔法を今でも的確に捌いている、この期に及んでなんでわざわざこいつと戦うんだ? 向こうに集中した方が楽に戦えるだろ」
「悪いが、こいつから全力を引きずり出すまで譲る気はない」
「はあ、面倒なことになったな……なら、勝手に戦わせてもらう。間違っても手助けされたなんて思うなよ? こういうのは早い者勝ちだ」
俺は再び矢を番え即座に矢を放った。さっさとこの男を処理したほうが後々この試合を有利に出来る。向こうの魔術師は明らかに秘策を隠している……今は牽制しながらチャンスが来たら二人掛かりで一気に倒した方が一番効率がいい。
「やむを得まい……それで手を打とう」
オリヴィエは俺が放った矢をよけようともせず、そのまま飛んでいる矢の先端を指先で触れると転送魔法でもう片方の敵へと送り飛ばした。その手際のよさには思わず見とれるほどのものだ。恐らくだがこいつはマジシャンの素質あるな。
「うわ!」
さっきまで魔法を捌いていた男は突然現れた矢に驚きながらも身を翻してかわす。しかし不意を突かれた動作だったために隙が生まれる。
「まずは一人か……」
なおもオリヴィエの執拗な爆撃が続き、相手は危機的な状態に陥るも何とか体制を立て直しつつある。俺もこのまま攻撃を仕掛け続ける。
「あぶな……!」
小さいせいか随分と身軽に動き回り、俺たちからの攻撃をよけ続ける。どうやら手加減していたのはこいつもらしい。そして武術家の方への攻撃が緩められた以上、そのチャンスを逃すはずもなく今度は俺の方に攻撃を仕掛けてきた。
「今度は俺か? まあ好都合ではあるが……」
「いつまでも余裕でいられると思わないことだ!」
相手が一度地面に伏せるかのように低い姿勢をとると、瞬時に俺の顎へ向かって蹴り上げてくる。真っ直ぐに向かってくる足を俺は手のひらで防いだ。この程度の攻撃ならば見切るのも大した造作ではないが、さっきまでより動きが良くなっているな。
「……さっきよりは速いな」
「もう少し速く出来るぞ?」
そいつの言葉通り、さらに速度を上げて手刀や蹴りを仕掛けてくる。特殊な歩法で俺の背後に回ったりとさっきまでとは、いや……今までの試合とはまるで別人の動きだ。
むしろお前が別人に成り代わっているんじゃないのか? と思えるほどの動き……これだけ出来てオリヴィエに対してはあの程度の戦いしかしていないのだからあいつがイラつくのもよくわかるな。
「何故オリヴィエと本気で戦わなかった? そんなに貴族を殴るのは罪深いのか?」
「貴族だからではない。この技は、俺の拳は女性や子供を殴るためのものではないだけだ」
「それがあの女の怒りを買っている事に気がつかないのか?」
「たとえそうだとしても……信念を変えるつもりはない」
「貫き通せると良いな、その信念」
成る程ね、そういえば前回の試合でもこいつが戦っていたのは女性だったな。それで本気を出さなかったのか? そう考えるとやはり面倒な事になるな……こういう理由だとあいつはいやでも本気を出させようとするはずだ。やはりこいつは俺が倒した方が穏便に済む。
「いつまでそんな冷静な表情でいられるだろうな! お前には弓を引く隙すら与えん!」
「大層な口を利くには実力が足りていないんじゃないのか? この程度の速さで」
「俺がいつこれが全力だといった? 全力とはこういうものだ!」
さらに動きが速くなったようだが……それでも俺に届くほどのものではないな。




