相手の目の前で会議
「しかしそうなると……私達では会場を盛り上げることは不可能だな?」
「そこは……相手か実況席の連中に任せるしかないな。俺もお前も、この試合は淡々としたものになるはずだ」
「いったいどうした天蓋……? いつもの貴様ならばもう少し楽しそうにしている筈だが、今の貴様は冷めているように見えるぞ?」
オリヴィエは俺の顔を不思議そうに、それでいて可笑しそうに眺めていた。こいつの中の俺は戦う前にそんな嬉しそうにしているように見えていたのか……? まったく自覚が無かった……自分の事というのは案外よくわからんものだな。
「実際に頭を冷やしているからな。飛び道具を使う以上、感情的になるのは禁物だ」
「それと弓術とどういう因果関係があると言うんだ? モチベーションが高い方が優秀な成績を残せるものだと思うが」
一般論としてはやる気があった方が良いんだろうが、人を狙うわけだからな。やる気があるのはかえって危険な思想ではある。
「案外そうでもないんだよ。一部の者はトリガーハッピーだとかバック・フィーバーだとかを起こす者もいる」
「トリガーハッピー? どういう意味だ?」
「どちらも弓ではなく銃火器の取り扱いの際に発生する状態だが、端的に言うと射撃を行うときの緊張感と興奮などで正確な状況判断ができなくなる事だ。前者は目標に対する射撃のみを執拗に行うだとか、乱射する事そのものに多幸感を持ってしまう。逆に後者は極度の緊張から金縛りに近い状態になり行動不能に陥ったり、訳もわからずそこら中に弾をばら撒くこともある」
「仮にそういうことが本当に発生するとしたら、確かに避けたい事態ではあるな。まともな精神状態でないとしたら連携も取れぬし、そもそも弾数にも限度がある」
まあそういうことを実際に俺がやるとは思えないが、注意するに越した事は無いからな。
「だから精神統一の為にも感情を表に出さないようにしている。結構熱くなりやすいタイプだからな俺は」
「それには同感だな。だからと言って矢を連射し続ける貴様の姿は容易には想像できないが」
「そう思ってくれるとありがたい」
お互いに抑揚の無い口調で話し合っていると、俺達がフィールドに上がる前から既に待ち構えていた相手チームが俺達に話かけてきた。
ちなみに障壁も張り終わっており、もはやいつでも試合が開始できる状態になっていた。
「作戦会議は終わったらしいな」
「待っていてくれたのか? 律儀な男だ」
「そこはありがとう、だろ。礼の一つも言えないのかオリヴィエ」
「それもそうだな。ありがとう。心遣い感謝する」
相手側はこの言葉にどうというリアクションもとらずに言葉を続ける。
「いや礼には及ばない。正々堂々と試合をしよう」
そう言いながら大柄な男、東洋系で身長は180後半……俺より背が高いな。確かに武術家としては申し分ないポテンシャルは持っていそうだ。そんな男が手を差し出してきた。恐らくは握手のためだろう。相方は逆に小柄な少年、というより十代前半にしか見えない容姿をしている。さっきの試合ではすばやい攻撃をしていた少年だ。
「おっと全員が戦闘準備を整えたようですね!」
「そのようですね。しかしここまで特徴的な対戦カードはなかなかありませんね。フィールド上にいる全員が十六歳には見えません!」
「確かに一人を除いて全員が年上に見えます! 果たしてどちらに軍配が上がるのかが楽しみですね!」
実況席ではいろいろと騒ぎ始めている。会場を盛り上げようとしているのだろうが、いかんせん地味な格好をしているからな。まあオリヴィエはある意味目立っているが、これを注目させるのもおかしな話だ。




