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崩天蛇神の秩序維持  作者: てるてるぼうず
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平穏は訪れなかった

「よし、全員集まったな。では二人組みを作ってくれ」


 いきなり呪いの言葉を口にするんじゃないよ。呪いを解くヒントはここにいる人数が偶数人であるという事実か。

 生徒会役員と風紀委員、そして手伝いの俺とほか数名が生徒会室に集まっている。相当な人数なので椅子の数が間に合わず、全員が立ったまま話を聞いている。

 ちなみに俺以外の手伝いは全員上級生だ。


「カルラちゃん、私と組みましょう!」

「だめよ私と組むの!」


 カルラは人気者のようだ。唯一の希望の星が絶たれたが俺にはまだ余裕がある。何せここにいる人数は偶数。つまり誰かしかとは必ず組めるということは小学生でもわかることだ。


「なあ、俺と組まないか」

「……ミスター? お前風紀委員だったのか」


 俺に話しかけてきたのはマクシミリアン。つまり最初の授業で先生から右ストレートを食らい、保健室送りになった男だ。そのとき皆に披露したトリプルアクセルが原因でMr,空中回転(フライングスピン)、通称ミスターというあだ名がついた男だ。


「その名前で呼ぶなっつーの」

「ああ、次からは気をつけるよ」


 そういうわけで、次は持ち場をくじで決めることになった。

 なるほど体育館の西側Bブロック……軽音楽部が勧誘するところか。これは過激(ロック)なやつが多そうだ。


「全員持ち場は決まったな。ナタク、例のものを」

「こちらに」


 ナタクがなにか水晶のようなものを配ってくる。一見するとビー玉みたいな大きさだが高価なものなのだろう。


「これはマーキュリー、情報伝達体のことだな、これで本部やペアと通信などを行う。一応映像なども記録することができるが、時間は短いといえるだろう」

「これって、最新型よね……」

「全員分あるって、いったいいくら金を使ったんだ?」


 やはり高価なものだったか。


「流石に大金持ちの三男坊はやることが違うな」

「天蓋君、これは学園が用意したものですので、私の家柄とは一切関係ありません。それから大金持ちでもありません」

「ははははははは!!」


 俺は思わず笑い出してしまった。周りの人たちは俺のことを怪訝な目で見つめる。

 しかし仕方あるまい。こいつの親は財運の神毘沙門天なんだぞ? こいつが金持ちじゃなかったら、この世から金持ちという概念はなくなってしまう。


「失礼しました。ジョークにしか聞こえなかったのでつい」

「まあ、明らかに金持ちだもんな、こいつ」

「そんなことは」

「それ嫌味にしか聞こえないぞ」


 まあ、あの一家露骨に金持ちアピールしてくるからな。


「無駄話は終わりだ! さっさと持ち場に移動しろ!」


 風紀委員長の一喝により、全員移動し始める。


◆◆◆◆◆


 持ち場に着いた。

 案の定、中は大変な乱痴気騒ぎだ。

 俺たちは与えられた仕事をこなしていく。もっとも俺自体には何の権限も与えられていないので、ほとんど説得と警告ぐらいしかしてないが。

 まあ、当然のことながら収まりが効くはずもなく、騒ぎは続く。

 とはいえ俺の持ち場は案外ましなようだ。通信では教職員が騒ぎを起こしているブロックも存在するらしい。自由な学園だよまったく。


「なんだ、貴様ここを回っているのか」


 オリヴィエに声をかけられた。ほかのやつらもそろっている。


「お前ら、何か問題起こしてないだろうな」

「お前どんだけ俺たちのこと疑ってんだよ! 起こすわけねーだろ」

「そうか、なにか面白そうな部活はあったか?」

「いやどこもたいしたことはなさそうだな」


 ま、どこもそんなものか。

 突如、後ろのほうで轟音が聞こえる。Cブロックのほうだな。たしか剣術部とかの武術系だったな。


「なんだ今の」

「本格的に始まったな、新入生を賭けてデュエルしているんだ」


 あなたは……風紀委員長! Aブロック担当では!?


「しかも一番厄介な剣術部だぞ。Cブロックの担当は二年生か……やはり荷が重すぎたな」


 知ってて送り込んだのか。酷い女だな。


「へへへ、俺の勝ちだな、じゃあこいつはもらっていくぜ」

「待ってくれ! そいつを持っていかれたら内は廃部なんだ!」

「知るか! 恨むんなら自分の弱さを恨むんだな!」


 よくみると新入生の奪い合いが発生していたようだ。見張りは何をやっているんだ。


「ここ、本当に学園よね?」


 エリーが独り言を言っている。


「しかもお互いにもの扱いしてますよ……生徒を」


 あ、確かに。じゃあ、自自業自得だな。

 なんかこっちに向かって来てんだけど。来るんじゃねえよ、面倒は御免だ。


「お、ここにも新入生がいやがるぜ」

「しかも見ろよ。結構可愛いじゃねえか」


 マジかよこいつら、オリヴィエたちに勧誘してきやがった。勧誘というのか?

 よく見ると他にもこいつらの仲間がうろついているな。これは逃げ切れないな。

 しかし、見張りの目の前でずいぶんと図々しい奴らだな。


「おい、私の目の前でずいぶんとふざけた勧誘をするんだな?」


 委員長が警告し始めた。これでおとなしくなるか。


「んん? これはこれは風紀委員長様、お疲れ様です」

「しかしこちらの事情も考えてください。部長からのノルマを達成しなければならないのです」

「ならばあの女に伝えてこい。これ以上は叩きのめすと」


 委員長の言葉を聞き、ならず者どもは大笑いをする。


「叩きのめす!? あの方をですか!?」

「この学園であの方に触れることができる奴なんて果たしていらっしゃるんですかねえ!?」

「チッ、貴様ら」


 舌打ちをするところを見ると、相当な実力者らしいな、剣術部の部長は。


「貴方たち、何をサボっているの?」

「!! クラウディア様!」

「まだこれだけしか集まっていないの? 使えないわね」

「クラウディア! 強引な勧誘はやめろといっているだろう」

「あら、強引なのはこいつらであって、私は穏便にしているわよ。あとこいつらは私への誠意でやっていることだから何もいえないわね」

「そんな言い分が通るとでも」


 話の流れから察するとこの人が部長のようだな。


「ねえ、貴女剣術部に興味ないかしら。貴女さえいてくれれば私としても安心して後輩に部を任せられるのだけれど」

「興味ないな。天蓋、貴様仕事しなくていいのか?」


 別にいいだろ、委員長に任せておけば。


「ここは俺に任せな」


 ミスター、ここを納める自信があるのか。いや、だめだったようだ。クラウディア部長が指を鳴らすと突如現れた二人組みに蹴り飛ばされてしまった。


「ミスター! 大丈夫か」

「だ、だから……俺を、その……名、で」


 どうやら大丈夫なようだ。


「ご無事ですか、クラウディア様」

「ええ」

「ふん、一年の分際でこの方に話しかけようとはなんと無礼な奴だ」


 そんなに偉いのか。俺はオリヴィエのほうを見る。


「大臣の娘だ、以前何度か会ったことがある」


 そりゃすごいな。お前も。


「一応聞きますが先輩がた、いきなりこんなことをして許されると?」

「何? まさか俺たちが何者なのか知らないで話しかけているのか?」

「こいつはとんでもない命知らずだ」

「……委員長。拘束の命令を」


 どうやら話が通じないようだ。


「わかった、許可しよう」

「正気なの? この二人は世界大会でも成績を残しているコンビよ? 貴女がかかってきなさいよ」

「いや、私はこの男に全幅の信頼を寄せている。こいつが勝てないなら大人しく諦めよう」


 ずいぶんと信頼されてるな、俺。


「ふーん、そんなに。ああ、いいこと思いついた。タッグデュエルをしましょう? そっちはオリヴィエを味方にしていいわ」


 タッグデュエルだと!? しかもオリヴィエを味方に? 勝機があるとでも。


「待て! 急造コンビではお前らが有利ではないか!? 二人とも一年だぞ!」

「あら、信頼してるんでしょう?」

「それは!」

「……じゃあ、ハンデとしてオリヴィエの得意な最小フィールドでデュエルにしましょう。いいわよね?」 


 俺たちに同意を求める。


「むしろ足りなさすぎでしょう」

「なに? 舐められたものだな。おい」


 オリヴィエが俺に声をかける。


「ああ、十分だ」


 当然即答する。 


「お前ら」

「決まりね。じゃあこっちが勝ったら二人は剣術部に入部よ」

「わかりました。ところで一つよろしいでしょうか?」

「何かしら」

「俺が勝ったらどんなご褒美が貰えるんです?」

「大した自信ね、こいつらにも見習ってほしいわ。ご褒美は……勝てばいずれわかるわ」


 なるほど、負けはないと思っているのか。つまり……。


「い、いいんですか!? そんな約束をなさって!?」

「ふん。さくら、まさか私と天蓋が組んで負けるとでも?」

「……想像できませんが」

「こいつら相当おめでたい奴らですね」

「ああ、世界大会でも活躍している俺たちに勝とうだなんて、世間知らずにもほどがある」


 ふん、強さなど語っても無駄だろうに。

 タッグデュエル……か、フフフ、どんな面倒な一日になることやらと思ったが。

 今日の日当としては、ずいぶんと気が利いてるじゃないか。 

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