入場
「さぁーてお昼休みも終わり午後の試合の時間となりました! 美味しいお昼ご飯も食べ終えたので実況にも力が入ります!」
「確かに美味しかったですよね! あの……ツバメの巣のスープにフカヒレの姿煮と、杏仁豆腐でしたか?」
「それにジャスミン茶ですね。ここから退席出来ないので皆様にもご馳走したのですが、喜んでいただけたなら幸いです」
怒涛の高級料理だな。
「あの漫談が終わったら俺達の入場だな」
「ああ、そうだな」
「……オリヴィエ、お前も忍装束を着込んでいるのか?」
「当然だろう? 見るか?」
そう言いながらオリヴィエはワイシャツのボタンを外し、シャツをめくると黒い装束が見えた。
「そうか、もう良いぞ」
再びオリヴィエはボタンを付け直した。
結果から言うと、俺も忍装束を制服の下に着ている。俺は努めて冷静に理路整然と反論したが、結局は多勢に無勢……全員に押し切られてしまった。
「素良さんですね? 頼まれていた物をお届けにあがりました」
「ん? ……ああ、あれか。随分とギリギリだな?」
「申し訳ありません。出来うる限り正確な情報を取捨選択しておりまして……提出が遅れてしまいました」
「とにかく預かっておこう。あの人にはありがとうと伝えておいてくれ」
ナタクに頼んでおいた物を持って一人の少女が入場ゲートまでやってきた。制服を着ていないことから恐らくナタクの家の使用人……だろうか? 何にしても試合に間に合ったのは幸運だと言えるだろう。
「何だその書類は? 何が書いてある?」
「次の対戦相手の細かい情報だ……手元にある資料ではわからないことがあったからな」
「わからないこと……? 詳しく記載されていたと思うが」
「ところが相手の使う呪術や道術に関する事は一切かかれていなかったからな……もっとも東洋の術を委細書き記すなんて事は至難の極みと言えるが」
だが、ナタクの手の者ならすべてお見通しだろう。
「それが書かれているのか……?」
「ああ、あの男の専門分野だからな。たとえ本人が見てなくても手下達だって相当な技術だ。げんにさっきの女がもういないことに気付いていないだろう?」
「……! いつの間に……いや、それ以前にいつここにきたんだ?」
「まだまだ甘いな……」
さっきの女はナタクの部下だな……ということは羅刹か夜叉のどちらか一方。木と水をモチーフにした髪飾りをつけていたのを考えると夜叉族か。
「……そろそろ入場だぞ」
「そのようだな」
俺は渡された書類を胸ポケットにしまい、開かれたゲートをくぐった。
「選手入場の時間です! 全試合で圧倒的な実力を見せつけ、勝利を手にしている天蓋、オリヴィエペア! 今回はどのような衣装でフィールドに上がるのでしょうか!? ……ああっと! なんということでしょう! 両者制服です! これはどういう事でしょうか!?」
「単にネタが尽きたんじゃないんですか?」
「あるいはそろそろふざける事を止めたのかもしれないな」
残念ながらこれからもますますふざけまくるらしいがな。
「いや! 何かあるのでは!? と思いたいところですが、気を取り直して実況したいと思います!」
「どうやら今回は刀で戦うようですね。長さから考えて二刀流のようです」
「それは楽しみですね! 天蓋選手はどのような戦いをするのでしょうか? 上杉さんはどう思いますか?」
「二刀流での戦いは珍しいのでちょっと予想がつきませんね。とは言え、彼が持っている刀は相当な業物ですので一太刀での決着もありえそうですね」
相変わらずこいつは俺の武器の説明を細かくするな。こいつ本気で俺の味方するきあるのか?
「そんなに凄い物なのか、それ」
「一応……童子切の名前を持っているな」
「凄い事なのか? その名前を持つのは」
「単に童子という化け物を斬り倒した事があれば付けられる名前だ。基本的に刀っていうのは特別な物を切るとそれが異名になるんだよ。その後にその時の持ち主の名前が続く」
その理屈だと殆どの武器が童子切だったり雷切になってしまうが、そういうものを切れるんだから業物に違いはないな。




